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ほりすすむの あめの国のものがたり
第三話 砂の国旅行体験記(4)

赤色土竜新聞第10号 2004.1.5

●エリダヌスのはなし

 食事の前にみんなはお祈りをした。ぼくは何も信じてないので、ただうつむいてだまっていた。アルフェッカはペラダンに感謝の祈りをささげていた。そしてエリダヌスと子どもたちはサラセンの神に祈りをささげていた。それぞれちがう宗教の者たちが、違う神様においのりし、そしていっしょに食事をする。ぼくはなんだか不思議な気持ちになった。
 アルフェッカはさっき、同じ宗教の「連帯」のための儀式のことを説明してくれた。でも、いまぼくたちはそれぞれ宗教がちがうのに、こうしていっしょに食事している。そして、お互いが仲良くなり、気持ちが通じあって「なかま」になっている。同じ宗教じゃなくたって、いっしょに何かを経験しながら、ぼくたちみんなが「連帯」できるんだ。アルフェッカはそう言いたかったんじゃないのかな?

 食事のあと、ぼくはエリダヌスにあめの国のことをきいてみた。「ねえ、エリダヌス。砂の国のひとはあめの国のことをどう思ってるの?」
 「ああ、それを聞きたいって言ってたのよね。わたしたちの国は、昔から戦争が続いているでしょう? あまり平和だった時がないのよ。だから人々のくらしもまずしくて、なかなか良くならないのよね。国も貧しいから、子どもたちもみんなが学校に行ってるわけじゃないし、大学や研究設備もすくないし、道路や橋もこわれかかってる。あめの国には映画館やコンビニもたくさんあるけど、砂の国にはほとんどないわ。」
 「そういえば、あめの国の自動車工場がたてられたでしょう?」「ええ、あの工場が来たときにはみんな喜んだわ。わたしたちにもこういう素敵な自動車が作れるし、社員になって働けばいっぱいお給料がもらえるって。でも、工場はしばらくしたら他の国へ行っちゃったのよ。」あれ、ゾウの国やワニの国と同じだ。
 「じゃあ、そこで働いていた社員はやっぱりクビになったの?」「そうよ。失業よ。」
 エリダヌスは学校の先生だったので経済のことをよく知っていた。「南の王国が北の王国と戦争している時、戦争に勝つためにあめの国におねがいして、南の王国があめの国から武器をもらったの。でもそのかわりに、この国から産出される石油をぜんぶ、あめの国に安く売る約束をしてしまったのよ。だから、いま油田地帯には、あめの国の石油精製工場がたくさんあるわ。あめの国はここで石油を精製して他の国に売っておおもうけしているのよ。でも、砂の国はあめの国に安く売っているから、あまりもうかってないわ。
 「じゃあ、けっきょく、北の王国と南の王国が戦争して、南の王国は戦争に勝ったけど、いちばん得をしたのはあめの国だったってわけ?」
 「そうね。あめの国は自由で豊かな国だから、みんなにうらやましがられているんだけど、それは、砂の国やほかの国ぐにを利用してもうかっているから豊かなのよ。」
 「じゃあ砂の国もあめの国をまねすれば豊かな国になれるんじゃないの?」
 「そうね。あめの国が砂の国を利用しておおもうけしているように、砂の国も他の国を利用すれば豊かになれるかもしれないわね。じゃあ利用される国はどうなると思う?」
 「それは貧しいままなのかな。でもその国も他の国を利用すれば…」
 「そうやって、だれかを利用して自分だけがもうけるなんてことをすれば、国と国とが仲よくなることはできないんじゃない? あめの国は豊かでうらやましがられてるけど、すごくうらんでいる人たちも砂の国にはたくさんいるのよ。」

●連帯のための儀式

 ぼくは、砂の国の人たちの気持ちが、ほんのちょっぴりだけどわかったような気がした。そしてペルセウス秘密同盟の人たちも、砂の国の人たちとおなじ気持ちを抱いているんじゃないかな、と思った。でも、ペルセウス秘密同盟が砂の国の命令でうごいているとはかぎらない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ぼくはアルフェッカにさっき思っていたことを思い切って聞いてみることにした。

 「ねえ、『イン・テラ・パックス』なんとかっていうお祈りのことばのことをお昼に聞いたでしょう?」「ええ、そうね。さっきあなたが隠していたことね?」「うん。それで、ほんとうはその前には『グロリア』なんとかってつくんでしょう?」「ええ、そうよ。」「もしも…もしもだよ。最初の部分をわざと省略して歌っていたんだとしたら、どう思う?」「つまり『いと高きところに神の栄光あれ』の部分を省略して『地には平和、人には恵みあれ』の部分だけを歌っていることになるわ。それが?」「ぼく、いま思いついたんだけど、あとの部分だけなら、別に神様を信じていない人だっていっしょに歌うことができるんじゃないかな?」「ああ、そういう考え方も成り立つわねえ。へえ、あなた、面白いことを思いついたわね。」「いや、そうじゃないんだ。ある人たちの集団が、『地には平和、人には恵みあれ』を目的にして、宗教を持っているひとも持っていない人も強い連帯のきもちを高めるために、その部分だけを歌っていたのかもしれない、って思ったんだ。」「あなた、それ、どこで聞いたの?」
 「実はね。ぼく、去年11月1日にカノープス市の地下室の集会にいたんだ。」
 「え?」アルフェッカの顔が青ざめた。「ペルセウス陰謀団のひみつ会議のこと?」「そう。その会議を始めるとき、みんなでこの歌をいっしょにうたっていたんだよ。あの人たちは別に宗教的なあつまりじゃないでしょう? だから自分たちの連帯のきもちを強めるために、この歌の最初の神様の部分をわざと省略して歌っていたんじゃないかって思ったんだ。」
 食卓はしーんとしてしまった。

●大スクープ

 「それ、すごい話よ。もっと聞かせて!」アルフェッカはこんどはこうふんしてほほが紅潮してきた。そこで、ぼくはあの日リュネールから聞いたはなしを伝えた。ペルセウス秘密同盟が持っていた消滅爆弾は、アルデバラン自動車工場のとなりのアルゴル爆薬製造工場から盗み出したものだったこと。でも盗まれた事を工場ははぜんぜん公表しなかったこと。自動車工場を爆破させたのは秘密同盟ではないこと。そもそも秘密同盟の目的は兵器工場を爆破することだったこと。自動車工場はここ一年くらい残業なんてなかったのに、あの日だけ会社は100人も残業させたこと。その100人は会社に反抗的な人たちばかり選んだんじゃないかということ。アルデバラン社は工場を移転する計画であること。そのためにアルゴル社に土地の売買けいやくをしてしまっていること。その事を社員は知らないこと。爆破事件は砂の国のいんぼうだと大統領が発表したので戦争がはじまったけど、工場地帯にたくさんある兵器工場は大統領とその側近が社長になっていること。だから戦争をすれば、大統領や側近たちが儲かることなどを、いっきに話した。
 「うーん。」アルフェッカはうなった。「これ、大スクープだわ。世界中がひっくりかえるようなおおさわぎになるわよ。もしこのニュースを流したら、あめの国の議会はすぐに調査団をつくって徹底的に調査することになるわね。それに、たぶん世界中で戦争に反対する運動がおこるわよ。」アルフェッカは興奮していた。
 「そうだ! このニュース、すぐ手配しなくちゃ。でも、あなた、この事を知られたら危険だわよ。あめの国には秘密ちょうほう機関があって、国家や大統領につごうが悪いことがおこったりしたらなにするかわからないのよ。あなたの命もねらわれるかも知れないわ。あめの国はすごくすすんだ科学技術を持っているから、どんな方法で狙ってくるかわからないわ。とにかく、そのはなし、めったなところではしちゃだめよ。私は、さっそく契約している新聞社にこのニュースを流すわ。……それだけじゃ足りないわね。……よし! 記者クラブに集まってるみんなにバラまきましょう。これで戦争がおわるわよ。」そう言うとアルフェッカは携帯でんわを取り出してプッシュボタンを押した。
 「もしもし、エウロパ? そっちにみんないる? たいへんよ! 大ニュース! この戦争のもとになったのはあめの国の自動車工場の爆破が原因だったでしょう? ペルセウス秘密同盟のしわざだって。その背後に砂の国があったからだって。それがちがうのよ。これはみんな、あめの国の大統領の陰謀よ! 大統領はわざと戦争を引き起こしてお金もうけをしてるのよ。明日の朝刊のトップ見出しは決まりだわ。『大統領の陰謀、発覚!』。ミラはきっと硬直して石になるわね。メデューサににらまれたくじらみたいに。え?……よく聞こえない。なに?……え?……」携帯でんわの調子が悪いらしい。
 「だめだわ、雑音がひどくて。わたし、急いで記者クラブに戻るわ。君もついてらっしゃい。もっと詳しく聞きたいから。エリダヌス、どうもごちそうさま。とてもおいしかったわ。あわてて帰っちゃうけどごめんなさいね。」「いいわよ。しかたないわ。それに、わたしも嬉しいわ。もしかすると、これで戦争が終わるんだもの。じゃ、がんばってね。すすむ君、ありがとう。ほんとうにうれしいわ。これでやっと平和が来るのね。」エリダヌスは目をかがやかせていた。

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