●戦争博物館の係員
ぼくはリュネールや教授たちのことが心配になった。あのあと、みんなはどうしているんだろう? 自動車工場破壊はペルセウス秘密同盟のせいじゃないのに、どの新聞でも、あの人たちを犯人あつかいしている。あめの国のひとたちはみんな「砂の国がやらせた」という大統領のことばを信じてるんだろうか? じゃあ、こっちの砂の国の人たちはどう思ってるんだろう? ぼくはその事を知りたくなった。ぼくは年代記をもとの場所にもどすと、受付のところにいって、エリダヌスにたずねてみた。
「ねえ、エリダヌス。いま、あめの国と砂の国が戦争してるでしょう? そのことを砂の国のひとたちはどう思ってるの? 教えてくれませんか?」
「そうねえ、ひとくちでは説明できないわ。ここの仕事は5時までだから、よかったらそのあとうちへいらっしゃい? いろいろ教えてあげるわよ。ついでに夕食も食べていって。」「え? いいんですか?」「かまわないわよ。こどもがふたりいるだけだから。でもまだ時間があるわねえ。じゃあ、それまで町を見学してきたら? なにかあたらしい発見があるかも知れないわよ。」エリダヌスはそういうと、市内の地図をコピーしてくれた。「ここが市場。それからここが教会。今朝(けさ)行ってきたのよね。それから、ここが戦争博物館。ここに行ったらなにかわかるかも知れないわ。」
「どうもありがとう。じゃあ5時にここにもどってきます。」ぼくはそういうと、さっそく外に向かった。
まずぼくは戦争博物館に行ってみた。そこでたくさんの展示されている写真を見た。壊(こわ)された家、両親(りょうしん)をなくしたこどもたち、けがをして入院している人たちなどたくさんあった。みんな悲しそうな目をしていた。それから展示されている武器や戦車を見た。ミサイルや投下型の爆弾もあった。砂の国製よりも、あめの国製やシロクマ国製の武器がたくさん陳列されていた。
博物館のあちこちに係員がいて、見物のひとに説明していた。ぼくは係員に聞いてみた。
「あのー、砂の国には『消滅爆弾』はあるんですか?」すると係員は答えた。「むかし持っていたこともあります。少しのあいだだけね。南の王国が北の王国とたたかっていた時にあめの国がくれたんですよ。それから作り方を書いた詳しい文書や、材料も送ってくれました。しかし、当時、砂の国ではそれをつくる設備(せつび)も技術(ぎじゅつ)もなかったので、つくることはできませんでした。」「あめの国からもらった爆弾はどうしたんですか? まだ持ってるの?」「いや、それは北の国との戦争の時に使ってしまいました。いまはもう無いはずです。」
「じゃあ、去年あめの国の自動車工場が消滅爆弾で爆破されましたが、あれは砂の国から持っていったものじゃないの?」「さあ、それが不思議なんですよねえ。爆弾は重たいですからねえ。ひとりで持ち運ぶのは無理ですよ。それに、そんなものを船や飛行機に持ち込んだら見つかってしまうんじゃないのかな?」
「じゃあ、あなたは、あの爆弾が砂の国のものだとは思ってないのですね?」「う〜ん。ぜったいちがうとは言い切れないけど、ちがうんじゃないのかなあ。それに、爆破された自動車工場のすぐ隣に消滅爆弾を造っている工場があるでしょう? そこから盗み出すほうが簡単なのになあ。でも、盗難事件はおこってませんからねえ。」
ぼくはそのあと、市場へ行ってそこにいるいろんな人に戦争のことを聞いてみた。中には「あめの国なんかひとひねりだ。来るならこい!」と勇ましいことを言うひともいたけど、たいていのひとは迷惑そうだった。みんな、戦争なんかしたくないようだった。だけど、なぜあめの国が攻撃してくるのか、と聞くと、よくわからないみたいだった。
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