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ほりすすむの あめの国のものがたり
第三話 砂の国旅行体験記(2)

赤色土竜新聞第10号 2004.1.5

●呪文のことばの意味

 アルフェッカは、その意味も教えてくれた。「最初の司祭さまが『クレド・インウヌム・デウム』っていったでしょう? クレドは『信ずる』って意味。ウヌムは『ひとつの』。デウムは『神』。続けると『われはただひとつの神を信ず』となるのよ。」「へー。ぼくは学校で英語しか習ってないけど、ぜんぜんちがうね。」「あら、そんなことないわ。ラテン語は英語のもとになったことばよ。だから似た単語も出てくるわ。例えば『ファクトレ』っていうことばは英語のファクトリーと同じ『つくる』って意味だし、『ビジビリウム』と『インビジビリウム』は英語のビジブルとインビジブルに当たるわね。つまり『見えるもの・見えざるもの』。他にもいっぱいあるわ。」
 「あの、ちょっと聞きたいんだけど。」「なあに?」「『イン・テラ』…えーと…」「『パックス』ね。」「そうそう。」「そのあとは『オミニブス・ボネボルム・タティス』。」「そうそう。そのとおり。よく知ってるなあ。それはどういう意味?」「これは最初の方が省略されてるわね。ほんとはこう始まるのよ…『グロリア・イン・エクスチェルシス・デオ・エト・イン・テラ』…。グロリアは『栄光』って意味。デオはデウムと同じ『神』のこと。テラは『地上』。パックスは『平和』。全体を訳すとこうなるわ…『いと高きところに神の栄光あれ。地には平和、人には恵みあれ。』」
 あれ? なんだかその訳したことばも聞いた気がするな。えーと、どこで聞いたんだっけな? ……
 そうだ! 思い出した。工場が消滅してしまった翌日、ミラ大統領がテレビで言ってたんだ! どうしてなんだろう?

 「ところで君、それ、どこで聞いたの?」「んん? いや、困っちゃったな。」「困ることないじゃない。ん? どこ? 隠すとこみると何かあやしいわねー。」今はまだ言うわけにはいかない。でも、半年まえの秘密の約束は、いまでもそのままリュネールさんたちのためになるんだろうか? あの集会のあと、あの人たちがどうなったか、調べてみたほうがいいんじゃないだろうか? ぼくはアルフェッカに聞いてみることにした。
 「ねえ、半年まえの話なんだけど、あめの国の自動車工場が消滅爆弾で消えちゃった事件、おぼえてる?」「ああ、おぼえてるわよ。あの時はおお騒ぎだったもの。砂の国から命令された『ペルセウス秘密同盟』のしわざだったのよね。」
(…ほんとはちがうんだけどな)
 「たしか、10月31日だったわよね。」
 「うん。それでね、その翌日、ミラ大統領がテレビで演説した時、演説の最後にさっきのお祈りの言葉を言ってたんだよ。どうしてなのかな?」
 「ああ、そうなの? それはなんとなくわかるわ。大統領もペラダン教の信者ですもの。だけど、わたしは大統領の考え方は少し変だと思うわ。」
 「え?それはどういう意味?」
 「詳しいことは後で話してあげるわ。たしかその日、カノープス市の地下室で秘密集会が開かれているっていう密告があったけど逃げられてしまったのよね。」
 そう。そこにぼくはいたんだ。
 「そのことだけど、なにかわかる資料ない?」
 「そうねえ。インターネットで調べる手もあるわね。でも、通信社の図書資料室に過去の新聞が5年分くらいとってあるはずよ。『ケンタウロス・タイムズ』よりは『デイリー・カノープス』の方が詳しいと思うわ。でも両紙ともあるわよ。」
 ぼくは大急ぎでランチをほおばった。「ねえ、急いで戻ろう。新聞を早く見せて。」「なあに? 急にどうしたの? さっきのグレゴリオ聖歌と関係あるの?」「今はまだいえない。でも、話す時がきたら、きっと一番に話すから。」

●新聞の記事

 アルフェッカはぼくのわがままにつき合ってくれた。僕たちはいそいでアルビレオ通信社のビルにもどった。そしてビル内にある図書資料室に入った。そこは入り口はそれほど広くないけど奥行きがあって、本がたくさんあった。古そうな本から新しいものまでいっぱいあるし新聞もおいてある。その新聞や本をたくさんの記者らしいひとたちが利用していた。
 「私はこれから記事をまとめなくちゃいけないので、ここで別れるわね。そうだわ。いい人を紹介してあげる。こっちへ来て。」アルフェッカは図書室の受付へ僕を連れていった。そこには黒い大きなスカーフで頭をおおった女の人がいた。黒くて濃いまゆげの下に大きなキラキラ光る目をした人だった。
 「こちらは、エリダヌス。この近くに住んでいるの。以前は学校の先生をしていたんだけど、戦争で学校が休校になっちゃったので、今だけ臨時にここの図書館員をやってもらってるのよ。わからない事があったら何でも聞いてね。とっても親切な人だから。エリダヌス、お願い。ちからになってあげて。」「うん。だいじょうぶよ。まかせて。じゃあ。」といってエリダヌスはアルフェッカを見送った。
 ぼくはエリダヌスから過去の新聞があるところを聞いて、『ケンタウロス・タイムズ』と『デイリー・カノープス』を見つけだした。そしてその中の10月と11月分を机のほうに持っていき、10月31日のところから開き始めた。そして見つけた! 11月1日の、あの日の会合の記事を!
 新聞には「国家てんぷくをもくろむいんぼう団、とり逃がす」と大きな字で一面トップに書かれていた。記事を読むと「警察とくしゅ部隊は、いんぼう団のかくれがを発見し、のりこんだ。しかし一味はけむりのごとく消え去っていた。」と書いてあった。ぼくは、そこにのっている写真を見ておどろいた。あの丸い部屋の写真があったのだ。部屋には「ミノタウロス」の文字とウシにんげんの絵がうつっていた。だけど、七つのとびらは無かった。ただかべがあるだけだった。「一味は中央のまるい部屋でこつぜんと消えてしまった。」
 よかった。みんな無事にあそこから逃げ出せたらしい。あのとびらは出口だけじゃなく、入り口も消えるのか。ぼくは、ほかになにか記事が出てないかどうか、そのあとの日付の新聞を探してみた。でも、それからあとは、いんぼう団と砂の国とのあいだの電話の盗聴記録(とうちょうきろく)とか、消滅爆弾が砂の国から運びこまれたらしいという証言とかが出ていただけだった。そして11月30日の新聞に、大統領は12月8日に砂の国を攻撃すると発表していた。

●砂の国年代記

 ぼくはそれから砂の国の歴史を調べてみることにした。新聞を元の場所にもどしてから、こんどはぶ厚い『砂の国年代記』を見つけてきて読み始めた。
…………………………………
 砂の国の国民の90パーセント以上はサラセン教徒であるが、ほんの数パーセントだけバラ十字教徒がいる。これは獅子の国の統治(とうち)の時にひろまった宗教である。古代ゾロアストル王国が獅子の国によって滅ぼされたあと、獅子の国に支配された。
 その後砂の国は独立したが、まもなくそれは北の王国と南の王国に分かれた。両国は仲が悪くてけんかばかりしていた。また、北の国の王も南の国の王もとても残酷な王様だったので国民のくらしは不幸で貧しかった。
 やがて「アルクトゥルス」という英雄が人々のためにたちあがった。南の民も北の民もアルクトゥルスとともにちからをあわせて北と南の王たちに立ち向かった。すると両王国の軍隊からもたくさんの兵士たちが逃げ出してアルクトゥルス軍に参加していったので、アルクトゥルス軍は両王国軍との戦争に勝利した。そのため北の国王も南の国王も国外へ逃げ出してしまった。
 こうしてアルクトゥルスを大統領にして新しい「砂の国共和国」が誕生した。しかし、あめの国は、まだ砂の国の国境地帯に隠れている北の王国軍ゲリラと南の王国軍ゲリラにたくさんの武器をわたし、再度戦争するように言った。そのために戦争はいつまでもつづき、国はちっとも豊かにならなかった。おもいあまったアルクトゥルスは、北方のシロクマ国に援助をたのんだので、シロクマ国から軍隊が派遣されてきた。しかしシロクマ国派遣軍(はけんぐん)の司令官はとても横暴な人で、砂の国共和国の政府を自分の思うままにあやつり、命令を聞かないものを次々と逮捕し牢獄に入れてしまった。そしてついにアルクトゥルスまでも逮捕し、裁判にかけて死刑にしてしまった。
 英雄を死刑にされた共和国の民はシロクマ国をうらみ、みんな北の王国軍や南の王国軍のゲリラに加わって、シロクマ国派遣軍とたたかったので、シロクマ国派遣軍はとうとうシロクマ国へ逃げかえってしまった。
 戦争はそれからも長くつづいた。また昔のように北の王国軍と南の王国軍が戦争を始めたからである。しかし、もうアルクトゥルスのような英雄は現れなかった。あめの国は南の国王アルタイルと取引をして、「あめの国が武器をたくさん援助するから、もし戦争に勝ったら砂の国の石油をあめの国だけに安く売ってもらう」という約束をした。こうして、あめの国からたくさんの武器が南の王国軍に渡されたので、戦争は南の王国の勝利に終わった。こうして南の国王アルタイルが砂の国全土を支配し、北の国王アルファドはゆりの国へと亡命(ぼうめい)していった。
…………………………………
 そうか。今、砂の国は南の国王が支配しているのか。
 すると、あめの国は、むかし自分が武器を援助して戦争に勝たせた国を、こんどは攻撃していることになるのか。味方したり敵になったり、なんでこんなに戦争ばっかりさせたがるのかな。

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でも結集してもなんにもないけど