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ほりすすむの あめの国のものがたり
第三話 砂の国旅行体験記(1)

赤色土竜新聞第10号 2004.1.5

●ペラダン教会

 ぼくは今のいままで「今日は11月2日だろう」と思っていた。だって、あめの国の秘密の会議があったのは11月1日だもの。それなのに、あの長い暗闇の廊下を抜けて出てきたら、6月8日になっているなんて! あの廊下は空間だけじゃなく時間も超える通路だったのか。
 そうか。それでわかった。ここでは半年も前から戦争が続いているというのは、そういうことだったのか。やっぱり、砂の国はミラ大統領から「大量破壊兵器を出せ」と言われて「無いものは出せない」とこたえたんだ。そこでミラ大統領はこの国を攻撃することにしたんだ。リュネールが言ってたとおりになったんだ……半年前に。
 ぼくはリュネールに導かれて、この砂の国に来たんだ。リュネールはこの国でぼくに「なにか」を知ってほしかったんじゃないだろうか。この国にくれば、なにかぼくが「知るべきこと」があるにちがいない。ここでリュネールがぼくに知らせようとしていたものを見つけてやろう。よし! まず手始めに、ペンテコステだ。
 「ぼく、行きます。ペンテコステに行ってみたい。いっしょに連れてってください。」
 「そう? じゃあいっしょにいきましょ。」

 ふたりは通信社ビルから出て、西の方角へ向かった。しばらく歩いて、広場に出た。がやがやと人の声がいっぱいする。そこは市場が開かれていた。市場にはいくつもいくつもテントが広げられていて、ゆかに広げたシートにはいろんな野菜や果物が並べられていた。どれもぼくの世界じゃ見たことのない形だ。魚や肉もあった。それから飲み物、衣服、たばこ、首かざりや化粧品、おみやげ品。お花……。店の人はみんな威勢(いせい)よく声をはりあげて売っていた。パン屋や食堂もあって、テーブルにはおいしそうな料理が並べてあった。広場を抜けると、幾つかの路地をとおり、それからまた広い通りにでた。通りの先に、周囲よりもひときわ高い建物がそびえ立っていた。通りをしばらく歩いて近づくと、それが教会だった。かべは白くて中央にまるいステンドグラスの窓があった。左右にもおおきなステンドグラスの窓がついていた。教会のいちばんてっぺんに十字架がついていて、その真ん中にはバラの花の模様がついていた。正面には大きな黒い木のとびらがあった。「ついたわよ。ここが私たちの教会よ。」とびらの上に大きな字で「バラ十字教団ペラダン教会」と書いてあった。

●似ている!

 実をいうと、ぼくのおじいちゃんとおばあちゃんは「聖公会」という英国キリスト教の信者だった。その教会には小さい時にいっしょに連れられていったことがある。その時に、司祭さまからひとりずつ、ちいさなおせんべいみたいなものを口に含ませられ、それからグレープジュースをひとくちずつ飲まされた思い出がある。何の儀式か知らないけど、とても大切なものらしい。ここの教会でもたぶん、そういう儀式をやるんだろうな。ぼくはアルフェッカの後ろにについて教会の中にはいった。
 なかは広くて、空気は外よりはひんやりしていた。クーラーがあるわけでもないのに、それほど暑さを感じなかった。柱は高いところでアーチ型にせり出していて、その柱が天井で星形に組合わさっていた。ステンドグラスは美しく室内を照らしていた。たくさんの人たちが教会の中にいた。中央の祭壇(さいだん)にはピカピカ光る彫刻(ちょうこく)がたくさん置いてあり、その中央にひときわおおきい十字架が立っていた。十字架にはバラの花輪の形の彫刻が組合わされていた。
 やがて司祭らしい人物が、三人出てきた。三人とも大きなりっぱな帽子をかぶり、黒いだぶだぶの服を着て、その上に金と赤のきらびやかな長いマフラーみたいなものを両肩から下げていた。三人とも手には長いクサリを持っていた。そのクサリの先には壺がぶら下がっていて、そこから煙が出ていた。けむりはいい匂いがする。「香(こう)を焚いているのよ。」とアルフェッカが説明してくれた。三人は時々、その壺を下げたクサリをふりこのように振っていた。場内にいた人たちはみんなそれぞれ席について手をあわせ、司祭たちの方に注目していた。
 中央の木の台の上に大きくて重たそうな古い書物が置いてあった。司祭のひとりがそれを開き、まるで歌うように祈りのことばを読み始めた。
 「クレド・インウヌム・デウム。」すると他の司祭たちもいっしょに唱和し始めた。「パートレム・オムニポテンテム・ファクトレム・チェリ・エ・テラ・ビジビリウム・オムニウム・エト・インビジビリウム……」
 その声はゆったりとした独特(どくとく)の不思議な抑揚(よくよう)とリズムをもって教会内部に響いた。それを聞いて、あっ!とぼくは思った。その瞬間、頭のうしろがざわざわっとした。ぼくは思わずつぶやいた「似ている!」

●一千年の時を超えて

 それは、あのペルセウス秘密同盟の人たちが唱えた呪文に似ていた。ことばはちがっていたけど、歌い方がそっくりだったのだ。
 やがて、お祈りが終わったあと、信者たちは3列になって前に進んだ。祭壇の前で3人の司祭がひとりずつに、ぺちゃんこの小さなパン切れを口にいれ、それから飲み物を飲ませていた。おじいちゃんたちに連れられて来たときとそっくりだ。ぼくたちもその列にならんでパン切れと飲み物を受けた。やっぱりグレープジュースだった。終わった人たちはそのまま帰っていく。
 「これでおしまい?」「そう。これでおしまいよ。あとはそれぞれの家庭でお祝いして、歌をうたったりごちそうを食べるの。でも、私たちはどこかレストランにでも入りましょう。そろそろお昼だわ。おなかすいちゃった。」

 ぼくたちは教会を出て通りを歩き、大きな通りに出た。爆撃で壊れている建物もあったけど、まだそれほど大きな被害は出ていないみたいだ。ここはこのまちのメインストリートだろうか。通りはたくさんの人でごったがえしていた。いろんなお店が軒(のき)を並べていて活気があった。銀の食器を売る店がたくさんある。それに古いカブトや剣を並べている店も。剣はどれも三日月のようにわん曲し銀色に光っていた。それから銀の首飾りやうでかざりもたくさん陳列(ちんれつ)されていた。それからじゅうたんを売る店。鮮やかな青い色の豪華なじゅうたんもあり、赤い小さなじゅうたんもあった。どのじゅうたんにもからくさもようや動物のもようやなにか紋章(もんしょう)のようなものなどが織り込まれていた。アルフェッカは店の前を歩きながら、いろいろ教えてくれた。銀の食器のこと。うでかざりのこと。それをつけて踊るダンスのこと。三日月の剣のこと。じゅうたんのこと。……
 この通りにはところどころレストランや喫茶店(きっさてん)があった。喫茶店では男たちが水ギセルを吸いながら話したり笑ったりしていた。水ギセルはごぼごぼとけむりのあわを立てていた。
 ぼくたちはしばらく歩いて、ひとつのレストランにはいった。そこは店の外の石だたみの道路にもテーブルがいくつか並べてあった。そこで僕たちは注文したものを外に運んでもらって食べることにした。
 テーブルにつくなり、アルフェッカが突然聞いてきた。
 「ねえ、さっき司祭さまのお祈りを聞いて『似ている』って言ってたでしょ? なにか似ているものを聞いたことがあるの?」

 うっ…。困ったぞ。ペルセウス秘密同盟のことはしゃべるわけにいかない。
 「いや、そんな気がしただけです。あのことばは何なの? どういう意味?」
 「あれはね、『グレゴリオ聖歌(せいか)』というものよ。歌われていることばはラテン語。あなたたちの世界から来たことばよ。」「えー、そうなんですか。ラテン語?」「ラテン語は二千年くらいまえには西洋で話されていたの。でも、だんだん誰も使わなくなって、ただ教会の中だけでつかわれるようになったの。」
 「じゃあグレゴリオって、教会の人?」「そう。今から千数百年もむかしの人よ。その人が教会のお祈りのことばを歌にしたの。そのうたが古文書(こもんじょ)に記されてから一千数百年のあいだ、ずっと歌いつがれてきたのよ。」
 「ええ? さっきの歌は千年以上もむかしからうたわれてきたの?」「そうよ。ずっと変わらない歌い方でね。」
 たしかにびっくりだ。同じうたが一千年の時を超えて今もうたわれているなんて。テレビのアイドルが、どんなに人気があったって千年後にはもう誰も知らないだろうな。ぼくはなにも信仰してないけど、「何かを強く信じる」ってすごい事なのかもしれない。

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