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ほりすすむの あめの国のものがたり
第一話 あめの国旅行体験記(3)

赤色土竜新聞第8号 2003.12.22

●儲ける自由と生きる自由

 「やがて、あめの国はとても豊かな国になり、大きな財産を持つお金持ちがたくさん増えた。お金があれば、もっと大きな自由を買うことができると考えたあめの国のひとたちは、もっと自由になるために、たくさんお金を儲けることにした。そこで、ワニの国やゾウの国に行って、お金を使っていろいろな工場を建て、また農地を買い入れた。そしてその国の人たちをやとって働かせたので、工場や農場はとてももうかった。……」

 ははあ、なるほど。さっきターレスたちが自動車工場をゾウの国に移したと言ってたのはこのことだな。移ったのは自動車工場だけじゃなかったんだな。

 「工場はとても儲かったので、その持ち主であるあめの国の社長が受け取る利益はとてもおおきかったが、工場で働く人たちはいっしょうけんめい働いても、給料は少なかったので、生活が苦しかった。そこで工場の工員たちは集まって相談し、『会社がもうかっているんだから、自分たちの給料もあめの国の工員たちと同じ金額にしてくれ』と会社に要求した。社長は工員たちの給料を少しだけ上げたが、その後間もなく、工場を他のもっと給料が安くてもいい国に移してしまった。」

 なるほど! あめの国の会社が工場をゾウの国やワニの国から他の国へ移動したわけがわかった。だけど、まてよ。今の世の中、自分のしたいことを自由にするためには、お金が必要だ。だから、貧しいってことは、自由がしばられていることになる。これって、あめの国の会社の「儲ける自由」が他の国の人の「生きる自由」をしばっていることになるんじゃないのかな? お金を儲けるのは自由だと思うけど、「誰からも自由を束縛されない」と宣言したあめの国が、他の国の人の自由を縛ってもいいんだろうか? それとも貧しい人は自分のせいで貧しいんだから、不自由なのは仕方がないんだろうか。だから儲けている人に文句を言ったり要求したりするのはまちがっているんだろうか? 「自由」って何だろう。僕たちはどんな「自由」を尊ぶべきなんだろう。 

●ウシトラの謎

 考え事をしているうちにあたまがいっぱいになってしまった。それにずいぶん時間がたってしまった。そろそろフォーマルハウト教授のところに行ってみよう。ぼくは図書館を出るとタクシーをつかまえて教授からもらった名刺を見せ、みなみのうお地区の教授の家までつれていってもらった。教授は僕を待っていてくれた。
 「やあ、いらっしゃい。よく来たね。家族を紹介するよ。」教授は奥さんとふたりの子どもたちを紹介してくれた。といっても、二人とも僕よりも年上だった。食事は質素だけどおいしかった。そのあとお茶を飲みながらよもやま話に花がさいた。ぼくの世界のはなし、有名な建物や景色のこと、おいしい食べ物のはなし、好きな漫画やテレビのはなし…。
 「おや! 君は『ゾウの会』の支持者だったのかい?」と教授がぼくの胸のバッジを見てたずねてきた。「いえ。これ、もらったんですよ。昼間、アルデバラン自動車工場に見学に行って、そこで仲良くなったひとから。そのひと、ゾウの会の支持者だったんです。」
 教授はその時、ちょっと困ったような顔をした。「…そうか。アルデバラン工場に友だちができたのか。」「え? 工場になにかあるんですか?」「いや、何でもないよ。それは良かったね。この世界でたくさん友だちをつくるといいいよ。いろいろな人とあっていろいろな話や意見を聞くのは、きっと君のためになる。」

 それから僕は教授の書斎に通された。そこでぼくは、さっきから気になっていたことを尋ねてみた。「教授。ウシトラの方角ってどっちなんですか?」「それは北東のことだよ。君は『風水』って知ってるかい?」「ああ、聞いたことがあります。」
 「うん。それは竜の国の古い学問『陰陽道』(おんみょうどう)から来ている。陰陽道とは時間と方位の謎を解明し支配することによって、人間の運命を支配しようとするものだよ。そしてそれは実際に古代の都市計画にも応用されている。」教授は説明を続けた。
 「まず東西南北それぞれには神が宿っている。それを四神というんだ。北に玄武(げんぶ)、これは山を意味する。南は朱雀(すざく)、これは平野だ。東は青竜(せいりゅう)、水のことだな。そして西に白虎(びゃっこ)、これは道を意味する。こういう地理的条件のあるところにみやこを建設すれば、そのみやこは繁栄するといわれる。家をつくる時もこれは応用できる。またそれぞれの方角には色が決まっている。玄武は黒、朱雀は赤、青竜は青、白虎は白、そして中心にいる自分は黄色だ。」
 「あのー、ウシトラというのは十二支に関係あるんですか?」
 「そのとおり。よくわかったね。では次に、十二支の謎を解いていこう。十二支は年だけじゃないんだ。一日ごとに干支(えと)は決まっているし、時間や方位にも当てはめることができるんだ。そこで方位にあてはめてみると、ネズミを北にして右回りに12等分した方角を決めることができる。そうすると東はウサギ、南がウマ、西がトリになるね。だけど、普通、方角は八方位とか十六方位で表わすだろう? そこで、北東はウシとトラのあいだだからウシトラと呼ぶんだ。」
 「それじゃあ、南東は、えーと、ネ・ウシ・トラ・ウ……タツミ?」
 「そう。分かってきたね。同じように南西をヒツジサル、北西をイヌイと呼ぶわけだ。どうだい。面白いだろう?」

●こちらの世界とあちらの世界

 そうすると、こちらの世界はぼくたちの世界から見てウシトラ、つまり北東の方向にあるっていうことなのかな? 教授の説明はさらに続いた。「陰陽道では北東というのは特別な意味がある方向なんだ。それは「魔界」とつながっていて、疫病だとか災害だとか、悪いものはみんな北東からやってくる、と昔は信じられていた。だから都市を造るときには、北東方向にお寺だとか、なにか神聖なものを置いて、これを魔よけにするんだよ。家の中でも北東の方角に魔よけのおふだを貼ったりするね。」
 「じゃあ、ここの世界は『魔界』なんですか?」「はははは。君たちの世界から見たら、私たちの世界はそう見えるんだろうね。だけど、そうじゃないよ。君たちの世界の人たちはこちらの世界を恐れたんだろうけど、それは私たちの世界のことをよく知らないからだよ。知らないものは怖いだろう? それにこちらの世界が君たちの世界の北東にあるというのは迷信だよ。ここは、西洋では主に地下にあると思われているし、東洋では北東の方角にあると思われている。 でも本当はどこにあるのか説明はできないんだよ。」
 教授は、知らないからこわがるんだと言う。それは僕たちの世界の中でもあるなあ。怖そうに見えた外国人が、話をしてみたら案外いい人だったりする。

 フォーマルハウト教授はいろんな事をよく知っていた。そして僕たちの世界の古い宗教書や研究書の中にここの世界のことが記録されていて、お祭りになったりしていると教えてくれた。
 「君たちの世界と私たちの世界とはとてもよく似ていて、背中合わせに存在しているんだよ。だから、それぞれよく似た国がたくさんある。まったくそっくりというわけではないけどね。例えばこちらの世界には東洋にサクラ国とハマナス国とに分かれている小さな島国があるが、 たぶんそれが君の国と同じ国にあたるんだろうね。」
 そういえば日本でも、明治維新のころ「北海道独立共和国」をめざした人たちがいたらしい。こちらの世界ではそれが実現しているのか。
 「サクラ国ではわれわれの世界と君たちの世界が出会うのは8月の「お盆」という日になっている。その時には「地獄の釜のふたが開く」と言われ、ふたつの世界はその日に出会うんだよ。また、あめの国では毎年10月の最後の日がその日だといわれてきたが、その言い伝えは元々、獅子の国やシャムロック国から来たもので、そこでは夏至の日の夜つまり『真夏の夜』に「魔物がやってくる」といわれているんだ。だけど、最近じゃどこでもあめの国のやりかたが流行(はや)ってきているみたいだね。
 それから、君たちの世界ではわれわれの事をいろいろな呼び方で呼んでいるようだね。ある国では妖精と呼んでいるし、また別の国ではパックと呼ぶ。悪魔とも呼ばれるし、鬼、神、魔物、精霊、いろんな呼ばれ方をしている。それから、両方の世界が出会う時には不思議な事がおきるんだ。だから君は、この世界にいるあいだはこの世界の文字も読めるし、ことばも話せる。そのことに気がついていたかい?」
 ぼくは、はっ!とした。そうか。ぼくはあめの国のことばでしゃべっていたんだ。

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