つぎへすすむまえにもどる
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★  二 銀行とその新しい役割

 銀行の基本的で本来的な業務は支払の仲介である。これと関連して、銀行は遊休貨幣資本を稼働資本に、すなわち利潤をもたらす資本に転化させ、ありとあらゆる貨幣所得をかきあつめて、それを資本家階級の処理にゆだねる。
 銀行業が発展しそれが少数の銀行に集積されるにつれて、銀行は仲介者という控えめの役割から成長して、あらゆる資本家と小経営主のほとんどすべての貨幣資本と、さらにはその国や幾多の国々の生産手段と原料資源の大部分を意のままにする、全能の独占者に転化する。多数の控えめな仲介者からひとにぎりの独占者へのこの転化は、資本主義の資本主義的帝国主義への成長転化の基本的過程の一つをなしている。だからわれわれはまず最初に、銀行業の集積について論じなければならない。
 一九〇七/〇八年には、一〇〇万マルク以上の資本をもつドイツのすべての株式銀行の預金額は七〇億マルクであったが、一九一二―一三年にはそれはすでに九八億マルクになった。五年間に四〇%の増加であるが、しかもこの二八億マルクのうち二七億五〇〇〇万マルクは、一〇〇〇万マルク以上の資本をもつ五七銀行のものである。大銀行と小銀行とのあいだの預金の分布はつぎのとおりであった。〔第1表〔29〕を参照〕
 (*) アルフレード・ランスブルグ『ドイツ銀行業の五ヵ年』――『バンク』、一九一三年、第八号、七二八ページ。

〔第1表〕 預金総額中のパーセント
「「「「「ホ「「「「「ホ「「「「「「「ホ「「「「「「「ホ「「「「「「「「
     、ベルリンの、資本金 1000 万、資本金 100― 、小銀行
     、9大銀行 、マルク以上のそ、1000 万マルク 、(資本金100万マ
     、     、の他の 48 銀行、の 115 銀行  、 ルク未満)
「「「「「゙「「「「「゙「「「「「「「゙「「「「「「「゙「「「「「「「「
1907/08年、  47%  、  32.5%  、  16.5%  、   4%
1912/13年、  48%  、  36 %  、  12 %  、   3%
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 小銀行は大銀行によって駆逐され、大銀行のうちの九つだけで預金総額のほとんど半分を集積している。しかもここでは、たとえば多数の小銀行が大銀行の事実上の支店に転化している等々の非常に多くのことが、なお考慮されていないのである。このことについてはあとで述べる。
 シュルツェ―ゲーヴァニッツは、一九一三年末にベルリンの九大銀行のもつ預金額を、総預金額約一〇〇億マルクのうち五一億マルクと算定した〔30〕。この同じ著者は、預金額だけでなく全銀行資本を考慮に入れて、つぎのように書いた。「一九○九年末には、ベルリンの九大銀行は、その系列下にある諸銀行とあわせて、一一三億マルクを、すなわち、ドイツの銀行資本総額のほぼ八三%を支配していた。『ドイッチェ・バンク』(Deutsche Bank)は、その系列下にある諸銀行とあわせて約三〇億マルクを支配しており、プロイセン国有鉄道金庫とならんで、旧世界における最大の、しかも高度に地方分散的な、資本の集合体である(*)」。
 (*) シュルツェ―ゲーヴァニッツ『ドイツの信用銀行』――『社会経済学大綱』所収、テュービンゲン、一九一五年、一二および一三七ページ。

 われわれは「系列下にある」銀行というところを強調しておいた。なぜなら、それは最近の資本主義的集積の最も重要なきわだった特質の一つだからである。大企業は、とくに大銀行は、小企業を直接に吸収するだけでなく、小企業の資本への「参与」により、株式の買占めあるいは交換により、債務関係の体系、その他等々によって、小企業を「系列化し」、それらを従属させ、「自分の」グループに、自分の「コンツェルン」――術語でいえば――に包含する。リーフマン教授は、現代の「参与会社と融資会社(*)」の記述に五〇〇ページもある膨大な「労作」をあてた――もっとも、残念なことには、これは、しばしば消化されていない素材に、きわめて粗末「理論的」考察をつけくわえたものなのだが〔31〕。この「参与」制度が集積という点でどのような結果にみちびくかは、ドイツの大銀行にかんする銀行「実務家」リーサ−の著作のなかで、最もよくしめされている〔32〕。しかし彼の資料にうつるまえに、「参与」制度の具体的な一例をあげよう。
 (*) R・リーフマン『参与会社と融資会社。現代資本主義と証券制度の研究』、第一版、イェナ、一九〇九年、二一二ページ。

 「ドイッチェ・バンク」の「グループ」は、大銀行のあらゆるグループのうち、最大のものではないとしても、最大級のものの一つである。このグループのすべての銀行をいっしょに結びつけている主要な糸を確かめるためには、第一次と第二次と第三次の「参与」を、あるいは同じことだが、第一次と第二次と第三次の従属(「ドイッチェ・バンク」にたいするより小さな銀行の)を、区別しなければならない。そうするとつぎのような情景が得られる(*)。〔第2表を参照〕
 (*) アルフレード・ランスブルグ『ドイツ銀行業における参与制度』――『バンク』、一九一〇年、第一号、五〇〇ページ。

〔第2表〕 「ドイッチェ・バンク」の参与

「「「「「ホ「「「「「ホ「「「「「「ホ「「「「「「
     、第1次従属、 第2次従属 、 第3次従属
「「「「「゙「「「「「゙「「「「「「゙「「「「「「
 恒常的 、 17銀行へ 、このうち9銀、このうち4銀
     、     、行は34銀行へ、行は7銀行へ
     、     、      、
 不定期 、 5銀行へ 、  ――  、  ――
     、     、      、
  随時  、 8銀行へ 、このうち5銀、このうち2銀
     、     、行は14銀行へ、行は2銀行へ
「「「「「゙「「「「「゙「「「「「「゙「「「「「「
  総計  、 30銀行へ 、このうち14銀、このうち6銀
     、     、行は48銀行へ、行は9銀行へ
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 「ドィッチェ・バンク」に「随時」従属する「第一次従属」の八銀行のうちには、三つの外国銀行がはいっている。一つはオーストリアの銀行(ウィーンの「銀行連合」――《Bankverein》で、二つはロシアの銀行(シベリア商業銀行とロシア外国貿易銀行)である。「ドイッチェ・バンク」のグループには、全部で八七銀行が、直接にか間接にか、また全部的にか部分的にか、はいっており、そしてこのグループの支配する資本総額は、自己資本と他人資本をあわせて、二〇億―三〇億マルクと算定される。
 このようなグループの先頭に立ち、そして、国債のようなとくに大規模で有利な金融業務のために、自分よりわずかにおとるだけの半ダースほどの他の銀行と協定をむすんでいるような銀行が、すでに「仲介者」の役割から成長して、ひとにぎりの独占者の連合体に転化したことは、明らかである。
 まさに一九世紀末から二〇世紀初めにかけてドイツにおける銀行業の集積がどれほど急速にすすんだかは、つぎに簡略にしてかかげるリーサーの資料からわかる。〔第3表を参照〕

〔第3表〕 ベルリンの6大銀行の所有する営業所
「「「「「ホ「「「「「ホ「「「「「ホ「「「「「「「「ホ「「「
  年次  、ドイツ国内、貯蓄金庫と、ドイツの株式銀行、営業所
     、 の支点 、外貨両替所、への恒常的参与 、総数
「「「「「゙「「「「「゙「「「「「゙「「「「「「「「゙「「「
1895年、   16  、   14  、    1   、 42
1900年、   21  、   40  、    8   、 80
1911年、  104  、  276  、    63   、 450
「「「「「ヨ「「「「「ヨ「「「「「ヨ「「「「「「「「ヨ「「「

 われわれは、全国をおおい、すべての資本と貨幣所得を集中し、幾千幾万の分散経営を単一の全国民的な資本主義経済に、ついで全世界的な資本主義経済に転化させる、細かな運河の網の目が、どんなに急速に成長しつつあるかを見る。さきに引用した文章のなかでシュルツェ―ゲーヴァニッツが現代のブルジョア経済学を代表して語ったあの「地方分散化」というのは、実際には、かつては比較的「自立的」だった、あるいはより正確にいえば、局地的に(地方的に)閉鎖的だった経営単位が、ますます多く単一の中心に従属することにある。つまり、これは実際には集中であり〔33〕、独占的巨大企業の役割と意義と威力の増大である。
 より古い資本主義諸国では、この「銀行網」はもっと目が細かい。アイルランドをふくむイギリスでは、一九一〇年にすべての銀行の支店の数は七、一五一であった。そして四つの大銀行がそれぞれ四〇〇以上の(四四七から六八九の)支店をもっており、さらに四つの銀行が二〇〇以上の、一一の銀行が一〇〇以上の支店をもっていた。
 フランスでは三つの巨大銀行「クレディ・リヨネ」、「コントワール・ナシォナール」、「ソシエテ・ジェネラール」が、つぎのように自分たちの業務と支店網を繰りひろげていた(*)。〔第4表を参照〕
 (*) オイゲン・カウフマン『フランスの銀行業』、テュービンゲン、一九一一年、三五六および三六二ページ。

〔第4表〕
「「「「「ホ「「「「「「「「「「「「「ホ「「「「「「「「「
      、   支店と出張所の数   、資本額(100万フラン)
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     、地方所在、パリ所在、 総数 、自己資本、他人資本
「「「「「゙「「「「゙「「「「゙「「「゙「「「「゙「「「「
1870年、   47 、   17 、  64 、  200 、  427
1890年、  192 、   66 、 258 、  265 、 1,245
1909年、 1,033 、  196 、1,229 、  887 、 4,363
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 現代の大銀行の「結びつき」を特徴づけるのに、リーサーは、ドイツならびに全世界における巨大銀行の一つである「ディスコント―ゲゼルシャフト」(《Disconto-Gesellschaft》)(その資本は一九一四年には三億マルクに達した)の発送および受領した文書の数についての資料をあげている。〔第5表を参照〕

〔第5表〕 発受した文書の数
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    、 受領 、 発送
「「「゙「「「「゙「「「「
1852年、  6,135、  6,292
1870年、 85,800、 87,513
1900年、 533,102、 626,043
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 パリの大銀行「クレディ・リヨネ」では、口座の数は一八七五年のニ八、五三五から一九一二年には六三三、五三九に増加した(*)。
 (*) ジャン・レスキュール『フランスにおける貯蓄』、パリ、一九一四年、五二ページ。

 これらの簡単な数字は、おそらく、長たらしい議論よりももっと明瞭に、銀行の資本の集積および取引高の増加とともに銀行の意義が根本から変化することをしめしている。ばらばらな資本家たちから一人の集団的資本家が形成される。幾人かの資本家に当座勘定をひらくとき、銀行はあたかも純粋に技術的な、もっぱら補助的な業務を遂行するかのようである。しかしこの業務が巨大な規模に成長すると、ひとにぎりの独占者たちが全資本主義社会の商工業業務を自己に従属させるようになる。彼らは――銀行取引関係を通じ、当座勘定その他の金融業務を通じて――、はじめは個々の資本家の事業の状態を正確に知ることができるようになり、のちには彼らを統制し、信用を拡げたり狭めたり、信用を緩和したり引き締めたりすることによって彼らに影響をおよぼすことができるようになり、そして最後には、彼らの運命を完全に決定し、彼らの収益性を決定し、彼らから資本を引きあげたり彼らの資本を急速かつ大規模に増加させる可能性をあたえたり、等々のことをすることができるようになる。
 われわれはいま、ベルリンの「ディスコント―ゲゼルシャフト」の資本が三億マルクであると述べた。「ディスコント―ゲゼルシャフト」が資本をこのようにふやしたのは、ベルリンの巨大銀行のうちの二つ「ドィッチェ・バンク」と「ディスコント―ゲゼルシャフト」とのあいだの、ヘゲモニー争いのエピソードの一つであった。一八七〇年には前者はまだ新参者で、わずか一五〇〇万マルクの資本しかもたなかったが、後者は三〇〇〇万マルクをもっていた。ところが一九〇八年には、前者は二億マルクの、後者は一億七〇〇〇万マルクの資本をもっていた。一九一四年には前者は資本を二億五〇〇〇万マルクにふやし、後者は、他の第一級の大銀行「シャフハウゼン・バンクフェライン」との合同によって、三億マルクにふやした。そしていうまでもなく、このヘゲモニー争いは、両銀行の「協定」がますます頻繁になり、ますます恒久的なものになってゆくのと並行しておこなわれた。この発展の歩みは、すこぶる穏健で実直なブルジョア改良主義の限界をいささかでも越えることのない見地から経済問題を見る銀行業の専門家たちに、つぎのような結論をいやおうなく引きださせている。
 ドイツの雑誌『バンク』は、「ディスコント―ゲゼルシャフト」の資本が三億マルクに増加したことについて、つぎのように書いた。「他の銀行もこれと同じ道を追うであろう。そして、いまドイツを経済的に統治している三〇〇人のうち、ときとともに五〇人、二五人、あるいはもっと少ない人しか残らないであろう。最近の集積の動きが銀行業だけにかぎられるとは、期待できない。個々の銀行のあいだの緊密な結びつきは、当然また、これらの銀行の庇護する産業家のシンジケートのあいだの接近をもたらす。・・・・そしてある日われわれが目をさましてよく見ると、驚いたことに、われわれのまわりはトラストばかりになっている。そしてわれわれにとっては、私的独占を国家的独占によっておきかえる必要がおこっているだろう。しかもわれわれは本質的には、株式制度によってすこしはやめはしたが、事物の発展を自由にすすむにまかせたという以外に、自責すべき点はなにもないのである」。
 (*) ランスブルグ『三億をもつ銀行』――『バンク』、一九一四年、第一号、四二六ページ。

 これこそ、ブルジョア的評論の無能の見本である。これとブルジョア科学との違いは、後者のほうが誠実さが少なくて、事態の本質を塗りかくし木を見せて森を見せまいと努力するということだけである。集積の結果に「びっくりし」、資本主義的ドイツの政府あるいは資本主義「社会」(「自分自身」)を「非難し」、また、株式制度の採用からくる集積の「促進」を懸念しながら、「カルテルにかんする」ドイツの一専門家チールシュキーのように、アメリカのトラストをおそれ、また、ドイツのカルテルは「トラストほど法外に技術的進歩と経済的進歩を促進する(*)」能力はないという理由で、ドイツのカルテルのほうを「まだましだ」とすること、――これは無能でなくてなんであろうか?
 (*) チールシュキー、前掲書、一二八ページ。

 しかし事実はあくまで事実である。ドイツにはトラストはなく、あるのはカルテル「だけ」であるが、しかしドイツを支配しているのは三〇〇人たらずの資本の巨頭である。しかもその数はたえず減少している。いずれにせよ銀行は、すべての資本主義国で、銀行立法にいろいろ相違があるにもかかわらず、資本の集積と独占体の形成との過程を何倍にも強め、促進するのである。
 「銀行は、社会的規模において、一般的簿記と生産手段の一般的配分との形態を、しかしまさに形態だけを、つくりだす」、――マルクスは半世紀まえに『資本論』のなかでこう書いた(ロシア語訳、第三巻、第二冊、一四四ページ〔34〕)。さきにあげた銀行資本の増加、巨大銀行の支店と出張所の数の増大、それらの口座の増大その他にかんする資料は、全資本家階級のこの「一般的簿記」を具体的にわれわれにしめしている。いや、資本家のだけでない。なぜなら銀行は、一時的とはいえ、小経営主や勤め人やごく少数の上層労働者などのありとあらゆる貨幣所得をかきあつめるからである。「生産手段の一般的配分」――これこそ、形式的側面からすれば、幾十億という金(かね)を自由にしている現代の銀行――このなかには三つないし六つのフランスの巨大銀行や、七つか八つのドイツの巨大銀行がある――から成長しつつあるものである。しかしその内容からすれば、生産手段のこの配分は「一般的」〔共同的〕ではなくて私的であり、すなわち、巨大資本の――それもなによりも最大級の、独占的資本の−−利益に合致するものであって、この資本は、住民大衆が食うや食わずで暮らしており、また農業が工業の発展から絶望的に立ちおくれており、さらに工業では「重工業」が他のすべての工業部門から貢物を取りたてているというような条件のもとで、行動しているのである。
 資本主義経済の社会化という仕事で、貯蓄金庫と郵便局が銀行と競争しはじめている。これらは銀行よりも「地方分散化」しており、すなわち、より多くの地方、より多くの僻地、より広い住民層をその勢力圏にとらえている。つぎにかかげるのは、銀行預金と貯蓄金庫預金との増加の比較の問題について、アメリカの一委員会がまとめた資料である(*)。〔第6表を参照〕
 (*) アメリカ国家貨幣委員会の資料、『バンク』、一九一〇年、第二号、一二〇〇ページ。

 貯蓄金庫は預金にたいして四%とか四・二五%とかいう利子を支払うので、その資本の「有利な」投下場所をさがし、手形業務、抵当貸付業務その他の業務に乗りださなくてはならない。銀行と貯蓄金庫との境界は「しだいに消滅しつつある」。たとえばボーフムやエルフルトの商業会議所は、貯蓄金庫が手形割引のような「純粋の」銀行業務を営むのを「禁止する」ことを要求し、また郵便局の「銀行」活動を制限することを要求している(*)。銀行の有力者たちは、予期しない方向から国家的独占が彼らに忍びよってくるのではないかとおそれているかのようである。しかし、いうまでもなく、その危惧は、いってみれば同一官庁内の二人の課長の競争以上のものではない。なぜなら、一方からすれば、貯蓄金庫の幾十億の資本を実際に自由にするのは、結局は、銀行資本のあの同じ巨頭たちだからであり、他方からすれば、資本主義社会における国家的独占は、あれこれの産業部門の破産に瀕している百万長者のために、所得を高めたり確実にしたりする手段にすぎないからである。
 (*) アメリカ国家貨幣委員会の資料、――『バンク』、一九一三年、八一一、一〇二二ページ、一九一四年、七一三ページ。

 自由競争の支配する古い資本主義に、独占の支配する新しい資本主義がとってかわったことは、一つには、取引所の意義が低下したことのうちに現われている。雑誌『バンク』はこう書いている。「取引所はかつて、銀行が発行される有価証券の大部分をその顧客に売りさばくことがまだできなかったころには、欠くことのできない取引仲介者であったが、しかしそれはもうだいぶ以前からそういうものでなくなった(*)」。
 (*) 『バンク』、一九一四年、第一号、三一六ページ。

 「『どの銀行もみな取引所だ』――この現代の格言は、銀行が大きくなればなるほど、また銀行業における集積が進展すればするほど、ますます真実をふくんでくる(*)」。「かつて七〇年代には、若気の行きすぎをした取引所は」(これは、一八七三年の取引所瓦落〔35〕、創業スキャンダルその他を「それとなく」さしたものである)「ドイツの工業化の時代をひらいたが、今日では銀行と工業は『ひとりだちでやってゆく』ことができる。取引所にたいするわが国の大銀行の支配は・・・・完全に組織されたドイツ工業国家の表現にほかならない。もしこのように、自動的に作用する経済法則の作用する領域がせばめられ、銀行による意識的統制の領域が異常に拡大されるなら、それとともに、少数の指導者の国民経済上の責任はおそろしく増大する」。こう書いているのは、ドイツ帝国主義の弁護者で、すべての国の帝国主義者にとっての権威であるドイツの教授、シュルツェ―ゲーヴァニッツであるが(**)、彼は「些細なこと」を、すなわち、銀行によるこの「意識的統制」というのは「完全に組織された」ひとにぎりの独占者たちによる民衆の略奪であることを、塗りかくそうとつとめている。ブルジョア教授の任務は、全機構を解明し銀行独占者たちのすべての陰謀を暴露することにではなく、それを美化することにあるのである。
 (*) オスカー・シュティリッヒ博士『貨幣制度と銀行制度』、ベルリン、一九〇七年、一六九ページ。
 (**) シュルツェ―ゲーヴァニッツ『ドイツの信用銀行』、――『社会経済学大綱』、テュービンゲン、一九一五年、一〇一ページ。

 これとまったく同じように、もっと権威のある経済学者で銀行「実務家」のリーサーも、否定することのできない事実について、意味のない空言でお茶をにごしている。「取引所は、そこに流れこんでくる経済的運動の最も精巧な測定器であるばかりでなく、それのほとんど自動的に作用する調節器でもあるという、全経済と有価証券取引とにとって無条件に必要な特性を、しだいにますます失いつつある(*)」
 (*) リーサー、前掲書、第四版、六二九ページ。

 いいかえれば、古い資本主義、自分にとって無条件に必要な調節器である取引所をもつ自由競争の資本主義は、過去のものとなりつつある。それにかわって、自由競争と独占との混合物とでもいうべき、なにか過渡的なものの明白な特徴をもつ、新しい資本主義が到来した。そこで当然、この最新の資本主義はなにへ「移行」しつつあるかという問題がおこるのだが、この問題を提起することをブルジョア学者たちはおそれているのである。
 「三〇年まえには、自由に競争する企業家たちは、『労働者』の肉体労働の範囲に属さない経済活動の一〇分の九を遂行していた。いまでは、雇い人がこの経済的精神労働の一〇分の九を遂行している。銀行業はこの発展で先頭を切っている(*)」。シュルツェ―ゲーヴァニッツのこの告白はまたしても、最新の資本主義、帝国主義段階の資本主義が、なにへの過渡であるかという問題に通じる。――――――
 (*) シュルツェ―ゲーヴァニッツ『ドイツの信用銀行』、――『社会経済学大綱』、テュービンゲン、一九一五年、一五一ページ。

 集積過程によって資本主義経済全体の先頭に立つこととなった少数の銀行のあいだで、おのずから独占的協定への、銀行トラストへの志向がますます高まり、ますます強まっている。アメリカでは、九つではなく二つの巨大銀行が、すなわち億万長者ロックフェラーとモルガンの銀行が、一一〇億マルクの資本を支配している(*)。ドイツでは、さきに指摘した、「ディスコント―ゲゼルシャフト」による「シャフハウゼン・バンクフェライン」の併合は、取引所筋の新聞『フランクフルター・ツァイトゥンク〔37〕』のつぎのような評価をひきおこした。
 (*) 『バンク』、一九一二年、第一号、四三五ページ。

 「銀行の集積がすすむにつれて、一般に信用を求めにゆける営業所の範囲が狭くなり、そのため少数の銀行群にたいする大産業の従属が増大する。産業と金融界との結びつきが緊密なため、銀行資本を必要としている産業会社の行動の自由が制限される。そのため大産業は、銀行のトラスト化(合同あるいはトラストへの転化)が強まるのを、複雑な感情でながめている。実際にも、個々の大銀行コンツェルンのあいだに、ある種の協定――競争を制限しようという協定――の萌芽が、すでに再三現われている(*)」。
 (*) 『社会経済学大綱』のシュルツェ―ゲーヴァニッツから引用、一五五ページ。

 ここでもまた、銀行業の発展における最後のことばは独占である。
 銀行と産業との緊密な結びつきについていえば、ほかならぬこの分野で、銀行の新しい役割がおそらく最も明瞭に現われている。銀行がある企業家の手形を割引し、彼のために当座勘定をひらく等々の場合、これらの操作は、一つ一つとってみれば、この企業家の自立性をいささかも減少させないし、そして銀行は仲介者という控えめな役割からはみでてはいない。しかしもしこれらの操作が度かさなって恒常的なものになると、もし銀行がその手に巨額の資本を「あつめる」となると、またもしこの企業の当座勘定をひらくことによって銀行がその顧客の経済状態をますます詳細にますます完全に知ることができるようになると――そして実際にもそうなっているのだが――、その結果として、産業資本家は銀行にますます完全に従属してゆくことになる。
 それとともに、銀行と巨大商工業企業とのいわば人的結合が発展する。すなわち、株式を所有するとか、銀行の取締役が商工業企業の監査役会(あるいは取締役会)の一員になるとか、その逆の方法による、両者の融合が発展する。ドイツの経済学者ヤイデルスは、資本と企業とのこの種の集積にかんするきわめて詳しい資料をあつめた。ベルリンの六つの巨大銀行は、その取締役を三四四の産業会社に代表としておくり、幹部の役員をさらに四〇七の産業会社におくり、全部で七五一の会社に代表をおくっていた。これらの銀行は二八九の会社で、監査役会の役員を二人もつか、あるいは会長の地位を占めていた。これらの商工業会社のなかには種々さまざまな産業部門が、すなわち保険業も、運輸業も、レストランも、劇場も、美術産業その他も、見うけられる。他方、この六つの銀行の監査役会には〈一九一〇年に)、五一人の巨大産業家がいた。このなかにはクルップ社や大汽船会社「ハパーグ」(ハンブルグ―アメリカ汽船)の支配人、その他等々がいた。六銀行はそれぞれ一八九五年から一九一〇年までのあいだに数百の、すなわち二八一から四一九の産業会社のために、株式や社債の発行に参加した(*)。
 (*) ヤイデルスとりーサーの前掲書。

 銀行と産業との「人的結合」は、これらの会社と政府との「人的結合」によつて補足されている。ヤイデルスはこう書いている。「監査役会の役員の地位は、知名人や、さらにまた退職官吏にすすんで提供される。彼らは官庁との交渉のさいに少なからぬ便宜(!!)をあたえうるのである」。・・・・「大銀行の監査役会のなかには、国会議員やベルリン市議会議員がいるのが通例である」。
 したがって、巨大資本主義的独占体のいわば作成と仕上げは、あらゆる「自然的」および「超自然的」方法によって、全速力で進行する。こうして現代資本主義社会の数百人の金融王のあいだに、一定の分業が系統的につくりあげられてゆく。
 「個々の大産業家の活動分野がこのように拡大し」(彼らは銀行の取締役会に参加、等々している)「銀行の地方担当重役の管轄がもっぱらある一定の産業地域に限定されてゆくのと並行して、大銀行の指導者たちのあいだである程度の専門化がすすむ。このような専門化は、一般に、銀行企業全体が大規模になり、とくに産業との関係が緊密になるような場合に、はじめて考えられることである。この分業は二つの方向で進行する。一方では、全体としての産業との交渉が一人の取締役にその専門の仕事としてゆだねられる。他方では、各取締役が、個々の企業の、あるいは職種または利害の点でたがいに近い関係にある企業群の、監督をひきうける」・・・・(資本主義はすでに、個々の企業の組織的監督をするほどにまで成長したのだ)・・・・「ドイツの国内産業だけが、ときには西ドイツの産業だけが」(西ドイツはドイツで最も工業的な部分である)「ある一人の受持ちとなり、外国の国家や産業との関係、工業家その他の人事にかんする事項、取引所業務、等々が、それぞれ他の人たちの専門事項となる。さらにまた、銀行の各取締役が特殊の地域あるいは特殊の産業部門を受けもつことも、しばしばある。すなわち、ある人は主として電気会社の監査役会で活動し、他の人は化学工場、醸造工場あるいは甜菜糖工場で、第三の人は少数の個々の企業で、またこれとならんで保険会社の監査役会で活動している。・・・・要するに、疑いもなく大銀行では、その業務の規模と多様性が増大するにつれて、指導者たちのあいだの分業がますますできあがってゆくのであるが、しかもそれは、彼らを純粋の銀行業務よりもいわばいくらか高く引きあげて、産業の一般問題と個々の産業部門の特殊問題についてより判断力をもち、より精通したものにし、こうして銀行の産業勢力圏内で彼らをより活動力あるものにするという目的をもっている(そしてそのような結果をともなっている)のである。銀行のこのような制度はまた、産業によく精通した人物、たとえば企業家、とくに鉄道や鉱山関係の官庁につとめていた退職官吏を、銀行の監査役会に選出しようという努力によって、補足されている(*)」。
 (*) ヤイデルス、前掲書、一五六−一五七ページ。

 同種の制度は、すこし形はちがうが、フランスの銀行業でも見られる。たとえば、フランスの三大銀行の一つ「クレディ・リヨネ」は特別の「金融調査局」(service des etudes financieres)を設置した。そこではつねに五〇人を超える技師、統計家、経済専門家、法律家その他が働いている。この局は年に六〇万から七〇万フランの経費がかかる。局は八つの部に分かれており、第一の部は専門的に産業企業にかんする情報を収集し、第二の部は一般統計を研究し、第三の部は鉄道会社と汽船会社を、第四の部は有価証券を、第五の部は金融報告書を研究している、等々(*)。
 (*) 『バンク』、一九〇九年、第二号所収の、フランスの銀行にかんするオイゲン・カウフマンの論文、八五一ページ以下。

 こうして一方では、ますます銀行資本と産業資本との融合が、あるいはエヌ・イ・ブハーリンが適切に表現したように、癒着がおこり、他方では、銀行は真に「普遍的な性格」の機関に成長転化してゆく。われわれは、この事情をだれよりもよく研究した著述家ヤイデルスの、この問題にかんする正確な表現を引用することを必要と考える。
 「産業上の結びつきを総体において観察すると、その結果として、産業のために活動する金融機関の普遍的性格というものが得られる。他の形態の銀行とは反対に、また、銀行は地歩を失わないためには一定の事業部門または産業部門に専門化すべきであるという、文献でときどき開陳されている要求とは反対に、大銀行は、産業企業との結びつきを、地域と生産の種類の点でできるだけ多様なものにしようと志し、個々の企業の歴史に由来する、個々の地域あるいは産業部門のあいだの資本の配分の不均等を除去しようとつとめている」。「産業との結びつきを一般的な現象にしようというのが一つの傾向であり、この結びつきを恒久的で緊密なものにしようというのがもう一つの傾向である。両方の傾向とも、六大銀行では、完全にではないが、しかしすでにいちじるしく、そして同じ程度に実現されている」。
 商工業界からは、銀行の「テロリズム」にたいする苦情がしばしば聞かれる。そして、つぎの例がしめすように、大銀行が「命令」するときにそういう苦情が高まるのも、あやしむにたりない。一九〇一年一一月一九日に、いわゆるベルリンのD銀行(四大銀行の名称はみなDの字ではじまっている)の一つが、中部北西ドイツ・セメント・シンジケートの取締役会につぎのような書簡を寄せた。「本月一八日に貴シンジケートが某新聞に発表された公告から、われわれは、本月三〇日にひらかれる貴シンジケートの総会で、当方にとって好ましくない組織変更を貴企業内に生じさせるような決議が採択される可能性があることを、考慮せざるをえません。このためわれわれは、いままで貴社に提供してきた信用を停止するほかないことを、遺憾に存ずるしだいであります。・・・・もっともその総会で、当方にとって好ましくない決議がなされず、また将来にたいしてもこの点で適当な保障があたえられるならば、当方は喜んで新しい信用の供与にかんしてなにぶんの商議に応ずる用意のあることを表明します(*)」。
 (*) オスカー・シュティリヒ博士『貨幣制度と銀行制度』、一四八ページ。

 本質的には、これは大資本の抑圧にたいする小資本の苦情であるが、ただこの場合「小」資本の部類にはいっているのが一つのシンジケートなのである! 小資本と大資本との古くからの闘争は、新しい、はるかに高い発展段階で、ふたたびおこなわれている。いうまでもなく、幾十億の資本をもつ大銀行企業は、従来のものとは比べものにならないような手段で技術的進歩を促進することができる。銀行は、たとえば技術研究のための特別の団体を設立するが、その成果を利用できるのは、もちろん、「友好的な」産業企業だけである。そのようなものに、「電気鉄道問題研究協会」や「中央科学技術研究所」、その他がある。
 大銀行の指導者たち自身が、国民経済のなにか新しい条件ができあがりつつあることを見ないわけにはいかないのだが、彼らはそれらの条件をまえにしてどうしようもないのである。
 ヤイデルスはこう書いている。「近年の大銀行の重役職や監査役会の役員人事を観察した人ならみとめないではいられないことだが、産業の全般的発展に積極的に介入することは大銀行の必要でますます緊急な任務だと考える人々が、しだいに支配権をもつようになりつつあり、しかもそのさい、これらの人々と銀行の古い重役とのあいだに、このことで業務上の対立と、ときには個人的な対立がもちあがっている。このばあい問題となるのは、本質的には、銀行が産業の生産過程にこのように介入することから、信用機関としての銀行自体が害を受けはしないか、また、信用の媒介とはなにも関係のないような活動、そして銀行が産業上の景気の盲目的な支配にいままでよりもっとさらされることになるような分野に銀行をみちびきいれるような活動のために、堅実な原則と確実な利益が犠牲にされはしないか、ということである。古い銀行指導者たちの多くがこのように言うのにたいして、若手指導者の大多数は、産業の諸問題に積極的に介入することを、現代の大工業とともに大銀行と最新の産業的銀行企業が生みだされたことと同様に、必然的なことと考えている。ただ、大銀行の新しい活動にとってはまだ確固とした原則も具体的な目標も存在しないということについてだけは、両者とも同意見である(*)」。
 (*) ヤイデルス、前掲書、一ハ三−一八四ページ。

 古い資本主義は寿命がつきた。新しい資本主義はなにものかへの過渡である。独占と自由競争とを「協調」させるための「確固とした原則と具体的な目標」を発見することは、もちろん、望みない仕事である。実務家たちの告白は、シュルツェ―ゲーヴァニッツやりーフマンやこれと同類の「理論家」たちのような資本主義弁護論者たちの、「組織された」資本主義〔38〕の魅力にたいする官許の賛美とは、まるでちがった響きをもっている。
 大銀行の「新しい活動」が最終的に確立されたのはいつのことか、――この重要な問題にたいして、われわれはヤイデルスのうちにかなり正確な答を見いだす。
 「新しい内容、新しい形態、新しい機関をもつ、すなわち、中央集権的であると同時に地方分散的に組織されている大銀行をもつ、産業企業間の関係が、特徴的な国民経済的現象として形成されたのは、はやくても一八九〇年代以前のことではない。ある意味では、この起点は、企業の大『合同』があった一八九七年におくことができる。そしてこの大合同が、銀行の対産業政策の考慮から、地方分散的組織という新しい形態をはじめて採用したのである。あるいは、この起点はおそらくもっとあとの時期におくこともできるであろう。というのは、一九〇〇年の恐慌によってはじめて、集積過程は産業においても銀行業においても大いに促進され、強化され、また産業とのつながりがはじめて大銀行の真の独占に転化し、そのつながりがいちじるしく緊密で強度のものになったからである(*)」。
 (*) 前掲書、一八一ページ。

 だから二〇世紀は、古い資本主義から新しい資本主義への、資本一般の支配から金融資本の支配への転換点である。


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