はじめに
ボクが、この本を書くのを思い立ったのは、自衛隊の実情を知ってもらいたかったからだ。自衛隊が創設されて以降、自衛隊について書かれたもの、報道されたものは、確かに膨大にある。
が、そのどれも実情に迫っているとは、言いがたいように思う。メディアを通して伝えられるものは、その一部はともかく、真実も全体像も描かれてはいない。やはり、ここには二重にも三重にもフィルターがかけられている。
自衛隊というのは、閉ざされた社会だ。この中は体験したものでないとわからないことが多い。第一、ここでは今なお、旧軍時代の言葉が飛びかっている。グンタイやセンソウなどの、戦後の国民には忘れられ無縁になった出来事が氾濫している。
しかも、この十数年来、隊内の出来事を外部に伝えるのは、元陸幕長とか元統幕議長などの「軍事評論家」ばかりになってしまった。つまり、お偉いサンの考える自衛隊だ。
もっとも、自衛隊がいかに社会から隔絶されているとはいえ、そこは社会の縮図。さまざまな庶民的楽しみも、苦しみもある。ボクがここで描きたいのは、庶民の目から見た自衛隊、いわば、ヘイタイさんの目から見た自衛隊だ。長い退屈な自衛隊生活の中で、ボクは、そのオモテもウラも見てきた。本書では、この自衛隊の実情を正確に描くことに努めた。
この本の最初の版は、一九九五年に現代書館から出した。発行直後から、さまざまな反響、話題をよんだという。著者としては大変嬉しい出来事である。そして、本書の新装増補版をこのたび、社会批評社から出すことになった。
この新装増補版では、当時と異なることには「補足」として、注釈を入れている。また、最近の自衛隊、自衛隊員をめぐる出来事についても、書き足している。読者の、とくに隊員たちからの批評をお願いしたい、と思う。
二〇〇五年五月一日
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