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トロツキー文献案内
 

 一九六〇年以後出版されたトロツキーの文献を紹介する。六〇年以前は山西英一氏がほとんど独力でトロツキーの紹介活動をつづけ、「ロシア革命史」「唯一の道」「次は何か」「裏切られた革命」「スターリンの暗黒裁判」などが出版されたが、これはいまでは絶版になっており、「ロシア革命史」は角川文庫に、その他はトロツキー選集やトロツキー著作集等現在入手可能な版に集録されている。旧日本革命的共産主義者同盟と国際主義共産党がトロツキーの紹介活動を手がけ、「永久革命論」「コミンターン最初の五ヵ年」「フランスはどこへ行く?」「スペイン革命論」「労働組合指導の原理」「英露委員会」「革命的戦略の学校」「過渡的綱領」「レーニン死後の第三インターナショナル」「結果と展望」などがパンフレット形式で出されたが、これはいまでは入手不可能である。その後いくつかは新時代社が国際革命文庫で出版し、これは入手可能である。
 したがって、トロツキーの文献をそろえるには、
 1、柘植書房「トロツキー著作集」全一二巻二四冊(刊行中)
 2、現代思潮社「トロツキー選集・T期・U期」
の二つのシリーズを中心とし、これに角川文庫の「ロシア革命史」(山西訳)をくわえるのがよいだろう。ところが、現代思潮社の選集はT期全一三巻補巻3は完結したが、これは在庫が全巻そろっていない。そろえようとすると古書店でみつけなければならない。またU期選集は全二一巻のうち六巻しか発刊されておらず刊行の予定が未確定の状況にある。T期選集を母胎としたトロツキー文庫もあるが、これは選集のうちのいくつかであって、これも在庫はそろっていない。
 柘植書房では七四年の春から、著作集とは別に、トロツキーの著作の体系を網羅する新しい選集の企画がたてられている。したがって、これからそろえようとする場合は、著作集とあわせて、この新しい企画の新刊を刊行ごとにそろえていくのがよいだろう。
 以下、トロツキーの文献をあまり適切な分類とはいえないが、便宜上、テーマにわけて採録する。出版の年、定価などは記入しなかった。このうち新刊として入手可能なのは、柘植書房、鹿砦社、三一書房、角川書店、合同出版、学芸書林、河出書房のもので、現代思潮社のものは在庫のあるものは新刊で入手可能であるが、他は古書店でさがさねばならない。

ロシア革命・永久革命

 トロツキーの革命理論の中心―すなわちトロツキズムの核心―は永久革命論である。永久革命論こそスターリニズムをしてふるえあがらせる革命理論であり、それゆえにスターリニストたちはマルクス主義から永久革命の思想を排除してきたのである。永久革命論の“発明者”はマルクスであり、マルクスは世界革命の戦略を永久革命の理論でもって構築したのである。第二インターナショナルのマルクスやエンゲルスの弟子たる“理論家たち”は、マルクスの革命理論の中枢たる永久革命論を発展させるどころか、これを排除し、マルクス主義の経済主義化、俗流化に血道をあげた。マルクスの永久革命を直接に受けつぎ、これを発展させ、現実に通用したのがトロツキーであった。レーニンも一九一七年に到ってトロツキーの永久革命の立場に完全に一致するのである。この経過は本書の「ロシア革命の三つの概念」で知ることができよう。
 トロツキーの全理論活動のなかに一本の赤い糸として貫いているのが永久革命論であり、トロツキーのこの理論の正しさは歴史の現実が完璧に立証している。われわれは永久革命論をわれわれの革命理論の真髄として自己のものとしなければならない。この思想を自らのものとするためにくりかえし、トロツキーの永久革命論を学ばねばならない。
 トロツキーの永久革命論は一九〇五年のロシア革命のときにほぼその骨格が形成される。そして一七年の革命の理論はトロツキーのこの思想であり、トロツキーに同意したレーニンの「四月テーゼ」であった。ロシア革命以後、トロツキーは全世界を対象として永久革命論によって世界革命の戦略を構築していくのであり、この戦略はまた、スターリンの一国社会主義論、段階革命論への仮借ない批判でもあった。
 永久革命論はトロツキーの一九〇五年、一九一七年のロシア革命に慨する著作と、スターリンへの論争の著作としてまとめた永久革命論があげられる。この関係で翻訳、出版されている文献をあげると次のようになる。
一九〇五年革命・結果と展望(現代思潮社)
一九○五年(トロツキー選集U期2 現代思潮社)
一九〇五年革命論文集(トロツキー選集U期3 現代思潮社)
永続革命論(トロツキー選集T期5 現代思潮社)
ロシア革命史(全三巻 角川文庫)
 これには「永久革命論」の歴史、一国社会主義論などが付録として収録されている。
○一九〇五年の時期のトロツキーの重要著作として、われわれの政治的任務があるがこれは未邦訳で、この部分萩として「情況」一九七一年一月号にジャコバン主義か社会民主主義かが掲載されている。
永久革命の時代(河出書房)
 トロツキーのアンソロジーで青年時代から晩年までの重要論文をピックアップしてある。

赤軍の建設者・トロツキー

 一九一七年のロシア革命においてトロツキーはソヴィエトの軍事革命委員会の議長になり、労働者民兵を発展させて正規軍としての赤軍を編成し、これを指導して、国内の白色反革命軍を打ち破り、帝国主義の軍事干渉を粉砕してソヴィエト政権の軍事的勝利をもたらした。トロツキーは軍事上も天才であった。かれはマルクス・エンゲルス・レーニンの軍事論を発展させ、より豊富にしそれを実践して革命を勝利にみちびいたのである。労働者階級の革命闘争は、ピケット・ライン→武装自衛→労働者民兵→赤軍建設→内戦と干渉の排除という軍事的発展をたどらねばならないが、そのための理論武装にはトロツキーの軍事問題の著作はかかすことはできない。
革命はいかに武装されたかT/革命はいかに武装されたかU(トロツキー選集U期10・11現代思潮社)
○このほかには、マルクス主義論(鹿砦社)にエンゲルスの論文に付したトロツキーの序文が収録されており、また、マルクス主義軍事論・現代編(鹿砦社)には内乱の諸問題が収録されている。これはもっとも重要な著作である。
赤軍の形成(鹿砦社)には赤軍の指揮官としてのトロツキーの演説、指令などが収録されている。なお、赤軍についての解説には湯浅赳男著・革命の軍隊(三一新書)がある。

コミンターンにおけるトロツキー

 ロシア革命の勝利は世界革命の突破口であった。レーニンとトロツキーは世界革命を勝利させるには第一次世界大戦で帝国主義の側に移行してしまった社会民主主義にかわって、新しい革命の指導部を建設することが必要であり、それは国際的なインターナショナルの党として建設しなければならないと考えた。コミンターン(第三インターナショナル)は一九一九年に結成され、ヨーロッパを中心に各国にその支部が作られ、それは共産党となって各国の階級闘争の前衛となった。コミンターンにおける理論的指導者はレーニンとトロツキーであり、コミンターンの最初の五ヵ年において開催された第一回大会から第四回大会においては、レーニン、トロツキーによってボリシェヴィキの理論と実践の教訓が原則的に定式化されて、国際革命運動における理論上の武器がこの時期に集大成された。すなわち、世界革命の力学、前衛党の組織原則、統一戦線戦術、民族・植民地問題、革命的敗北主義、労働組合方針、革命的議会主義、ソヴイエト・二重権力……などコミンターンがスターリンによって支配される以前の最初の五ヵ年において革命運動の理論、戦略、戦術が集約されたのである。トロツキーのそれ以後の理論活動は、まさにこのコミンターンの初期の成果をスターリンの堕落、修正、歪曲から防衛し、現実の階級闘争とコミンターンの成果を結びつけるための努力についやされるのである。この時期の著作には次の文献がある。
コミンテルン最初の五ヵ年・上下(トロツキー選集T期1・2 現代思潮社)
革命的戦略の学校(国際革命文庫 新時代社)
コミンテルンドキュメント(現代思潮社)

労働者国家論・スターリニズム論

 ロシア革命は歴史上はじめて労働者階級が支配権力につき、社会主義的課題に挑戦することとなったが、ロシア革命につづくヨーロッパの革命はドイツ、ポーランド、ハンガリーなどで敗北し、結局ロシアの革命は孤立を余儀なくされた。後進的ロシアにおけるソヴィエト政権は世界的孤立という二重のハンディキャップを背負い困難な立場に追い込まれた。レーニンはヨーロッパ革命の次の攻勢にまでソヴィエト権力を防衛するため、さまざまの緊急措置を採用したが、ロシア内部の革命の力は低下にむかい、これはボリシェヴィキ党とソヴィエト国家の官僚化として表現され、革命に対する反動派は自らの代表をスターリンに求めた。レーニンは早くも党と国家の官僚化と闘う必要性を察知し、トロツキーとブロックを組んだが、すでに革命の心労によってレーニンの生命力は終ろうとしていた。レーニンが死ぬと、スターリンは公然たるテルミドールにのりだした。レーニン死後、トロツキーの力はスターリンの反動的テルミドールと闘争し、革命を防衛することに注がれた。スターリンはついにボリシェヴィキ党とソヴィエト国家体制を堕落させて、スターリニスト官僚によるボナバルチスト的支配をつくりあげる。しかし、スターリンのテルミドールにもかかわらず、ソヴィエトの経済体制の基礎たる生産手段の社会化は防衛された。ソ連には資本主義は復活しなかった。トロツキーはこの労働者国家・ソ連の革命の勝利、戦時体制、ネップ、工業化論争、スターリンによるテルミドール、党と国家の堕落…という全過程のまっただなかにいて、つねに革命の側を代表していた。それゆえ、世界革命がすぐにロシアに続かずに、その間の時期が永くかかり、ソ連がいっそう危機に立たされることによってトロツキーは“敗北”を余儀なくされた。トロツキーとスターリンの対立は決して私闘ではなく、革命を代表するトロツキーが世界革命の後退によって孤立と敗北を強制されたのである。
 トロツキーはスターリニズムを本質的に規定し、労働者国家を客観的に正しく規定した。そこから、労働者国家を帝国主義の反革命から防衛し、スターリニスト官僚を打倒して、労働者階級の民主主義を再生するための政治革命の必要性を打ち出した。この原則は今日、革命運動をおこなおうとするものがふまえるべきもっとも基本的な原則であり、これに異をとなえる“反帝反スタ論”のみじめな誤りがはっきりとこのことを証明している。
ソ連経済の諸問題(トロツキー選集T期補巻3 現代思潮社)
戦時共産主義期の経済(トロツキー選集U期13 現代思潮社)
左翼反対派の綱領(トロツキー選集T期3 現代思潮社)
裏切られた革命(トロツキー選集T期補巻2 現代思潮社)
ソヴィエト国家論(トロツキー選集T期9 現代思潮社)
トロツキー著作集にもこのテーマの論文が多くある。ソ連邦防衛と官僚制ボナパルチズム(三九〜四〇上)ソ連邦とスターリニズム(三八〜三九下 柘植書房)
スターリン(全三巻 合同出版)
○ モスクワ裁判といわれるスターリンによるテルミドールの一面をとりあげた著作は、トロツキー著作集に収録されているイグナス・ライス/二一名の裁判/レーニンからスターリンへ(三七〜三八下)、一七人の裁判/デューイ委員会の活動(三七〜三八上)(柘植書房)
ブハーリン裁判(鹿砦社)にもトロツキーの論文がある。
赤軍の粛清 は「第四インターナショナル・第九号」(新時代社)に収録されている。
偽造するスターリン学派(トロツキー選集T期補巻1 現代思潮社)


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