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国際革命文庫  9

第四・五回世界大会テーゼ
国際革命文庫編集委員会訳

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電子化:TAMO2

「スターリニズムの衰退と没落」
――第四インターナショナル第5回大会テーゼ――

第三章 第四インターナショナルの政治革命の綱領

 ポーランドとハンガリーの革命の発展、ソ連邦そのものにおける政治革命への客観的ならびに主体的条件の急速な発展、「人民民主主義諸国」のスターリニスト党における反対派の出現、官僚独裁の今日の危機によって促進された国際的な討論――これらのすべてが結びついて、第四インターナショナルが政治革命のより詳細で明確な綱領を定式化することを緊急に必要なものとしている。問題は、官僚主義的独裁に反対する大衆の最初の行動をもたらすような即時的・過渡的要求ではない。ソ連と「人民民主主義諸国」の革命的マルクス主義者たちは「過渡的綱領」のうちに含まれたソ連のための要求にほぼ沿ったような要求を、これらの国々に存在している具体的情況にもとづいて作成しなければならぬ。以下に素描した綱領は、政治革命勃発の前後ないし最中に、革命的マルクス主義者がすでに目覚めた政治的に能動的な大衆に提出する綱領である。ポーランド、ハンガリーの実例が示したように、先進的労働者が論議している中心点は、政治革命の中心間題たる国家と経済におけるソヴィエト民主主義を建設するための綱領である。
 この綱領は、もはや(ロシア)十月革命後最初の数年間の民主的な労働者国家の経験を単に一般化したものではありえない。それは、同時に、それ以来労働者階級の運動が蓄積してきた多くの経験を吸収しなければならない。すなわち、ソ連官僚国家の堕落、第三インターナショナルや各国共産党の経験、スペイン革命の経験、積極的なものであれ消極的なものであれユーゴスラヴィア、中国、ポーランド、ハンガリーの革命の経験、いわゆる「人民民主主義諸国」の経験――以上を、プロレタリアートの前衛と革命的青年が真のソヴィエト権力の樹立のために官僚独裁にたいして掲げた要求(とりわけ、一九五三年六月一六―一七日に東ベルリンおよび東ドイツ全体にみられたもの、一九五三年五月末にチェコスロヴァキアにみられたもの、一九五三年下半期以来ソ連のフォルクタその他の強制収容所における反乱の間に定式化されたもの、ポズナンの一九五六年六月のストライキの要求などが重要である)とともに吸収したければならない。

13 労働者国家組織は、古典的なレーニン主義国家理論の光のもとで再検討されなければならない。レーニン主義国家論、それは、最も民主的なブルジョア国家で享受されているものとさえ比較にならないほど民主的諸権利と自由を拡大して(断じて制限しない)、全勤労大衆が分かちもつソヴィエト民主主義の理論として受取られる。勤労大衆に対する無制限の政治的自由を認めるということは、敵対階級のすべての代表者、主要生産手段の私有の抑制に基づく労働者国家を転覆させることを目的とするすべての人たちに対して政治的自由を制限したり否定することをともなうことができるし、またともなわなければならない。その点で、プロレタリア独裁とソヴィエト民主主義は同義語である。
 実際的に語るならば、ソヴィエトすなわち都市と農村の筋肉労働者および知的労働者から自由に選挙された評議会――立法と執行にたずさわり、この理由がより高い民主組織形態であるところの組織――が権力を現実に行使するのには、次の保証があるときはじめて可能である。
 (a) ソヴィエト的合法性と労働者国家の憲法の枠内においてあらゆる党を組織する自由。
 (b) 出版と集会の完全な自由、それは筋肉および知的労働者の合法的に設立された少数派あるいはソヴィエトの決定によって支持された各分派が集会場、ラジオやテレビの放送時間、新聞および印刷物を現存する可能な供給量に比例して利用する権利の自由。
 (c) 中央立法機関代表および中央・地方および地区職員の選挙と定期的な再選を秘密投票と比例代表制ないし選挙人名簿によって行い、種々のソヴィエト諸党を代表させる。ならびに選挙人がのぞむとき被選挙者のリコール。
 (d) 行政とくに国家行政にたずさわるすべての職員の収入を、熟練労働者の収入と同一水凖に制限すること。
 (e) 秘密投票による裁判官の選挙と定期的再選、これによって国家行政機関に対する彼らの完全な独立を保証する。傍聴の自由を完全に認め、成文法にもとづき、各事件における弁護権の保証を伴った公開裁判。
 (f) 一切の永久的な秘密国内治安機関の撤廃。この機関は公開の労働者民兵によって置きかえねばならない。その民兵は必要な場合には、ソヴィエトの公開の統制下におかれた補助機関の援助をうけて活動する。
 (g) 労働者の全面的武装、工場・労働者街における自動火器庫の設置
 第四インターナショナルが保持するレーニン主義的原則は、こうである。プロレタリアートとその階級敵との関係において暴力が必要であるとしても、労働者内部において異った潮流がたがいに対立したり、また革命政党内で多様な潮流や分派が存在しても、そうした関係からは暴力は取り除かれなければならない。プロレタリアート独裁が意味するものは、階級敵の抵抗に応じてその敵に対して暴力を用いることである。ソヴィエト民主主義とは、労働運動内部における暴力行使を否定し、労働者階級およびその他の勤労社会層との関係では革命政党がただ説得と経験だけを行使することである。
 実際には、勤労諸階層と彼らの敵との間に境界線をはっきり描くことはできない。そして、種々の客観的な諸条件によって階級敵が勤労階級内における最も保守的な流派の内に支持を見出すことがありうるので、革命的な前衛はある場合には、苦痛にみちた選択を迫られることがありうる。すなわち労働者国家内の危険な状態の発展を受け入れるか、あるいはこの危険を克服するために、この前衛や労働者国家に対する労働者の信頼を危うくするような手段を用いるかを選ばねばならない。絶対的な真理やドグマを打ち出すものではないが、第四インターナショナルは次のように宣言する。過去の経験に基づいて言うならば、社会主義の世界的勝利が確保されないかぎり、つねに労働者国家は、資本主義的反革命という後退か官僚主義的堕落の発展かの二つの危険に直面せねばならないということは絶対に明らかであると。労働者国家が弱ければ弱いほど、そして、敵のふるう圧力が強ければ強いほど、ますます大多数の労働者の信頼と政治的主導権が欠落してゆき、また、労働者階級の諸部分にたいして用いられる強制がますます彼らの国家への信頼を奪い去り、官僚主義的堕落への途を開くのである。それだから、ソヴィエトの民主的な決定に従うことが、革命政党の義務なのである。たとえソヴィエトが重大な過ちをおかしても、このあやまちをやがて勤労大衆が経験によって認めて、おそかれはやかれ訂正するだろう。「労働者国家の組織の基礎としての全権方をソヴィエトヘ!」という原則がその意味を十分にもつのはこの精神においてのみである。
 労働者国家において労働者民主主義を再確立する政治革命の綱領を発展させる際に、第四インターナショナルは帝国主義に対する全労働者国家の防衛の原則を断固として守りぬく。自己の反革命的利益のために政治革命を利用しようとする帝国主義の企ての一切と闘うだろう。この帝国主義の努力は政治革命の前進につれて強くなるだろう。この結果、この点に関するわれわれの立場をたえず大衆や共産党幹部に説明する任務もいよいよ緊急なものとなる。

14 ソ連の官僚主義的堕落が証明しているように、官僚機構の権力の根源は、国家の生産機関を官僚が大なり小なり専横的に濫用することにあることを証明している。国家機関、経済指導機関と革命党との間の関係は、この理由で、ソヴィエトの社会主義的民主主義の発展を保証する際において決定的である。これらの関係は次の原則によって支配されなければならない。
 (a) 労働者国家と革命党との根本的な分離。一方は、他方にたいして、まったく別個のものであり、決して従属してはならない。とくにこれは、いかなる条件においても、いかなる国家機関も党内の諸傾向の討論あるいは抗争に干渉できないことを意味する。まして治安機関は一層そうである。これはまた、大衆(ないしソヴィエト)によって選ばれたいかなる国家機関も一つの党の決定によってその構成を修正されてはいけないことを意味する。
 (b) 民主的中央集権制のすべての規則を厳格に遵守し、党員は党指導者を選挙しそれを民主的に統制すること。定期的な大会と協議会。地区・地方・全国の指導者の秘密投票による選挙。分派を組織し、その分派が党内機関紙を印刷する権利。中央諸機関の重要な決定に先立って下級機関にできるだけ完全な情報と討議を保証すること。党員は彼が所属する下級機関の同意なくして処罰されないこと等。
 (c) 国家機関および経済機関の民主的管理はそれぞれ地域ソヴィエトおよび工場委員会によって組織されること。地方ソヴィエトおよび工場委員会はそれぞれ国家機関と経済機関の主要メンバーを選挙し解任すること。異った政治的潮流が指導者と行動綱領の選択に積極的に参加すること。
 (d) 指導的活動にともなう物質的特権の撤廃。そしてこのことには、党に属さない技術者の場合以外には例外を設けないこと。技術者の場合は、ソヴィエトの下級機関の密接な統制のもとにおかれなければならない。
 (e) 党内および国家機関内部のすべての論争的な問題あるいは経済の論争点にかんする最大限の情報と公示の原則。これはプロレタリアートが国家を効果的に導き、最大限の効率で政治を行うに必要な経験を最も短い期間に得ようとするための不可欠の条件である。

15 資本主義から社会主義への移行期において、社会主義経済の組織は、労働者国家における社会主義的民主主義の拡張―民主々義自体が最後の国家形態としてなくなってしまうような時までは―に向かうか、それとも労働者国家の種々な官僚主義的歪曲と新しい社会的不平等の出現をもたらし、ついに巨大な官僚主義的堕落に至る方向に向かうかの試金石である。
 マルクス主義者としてわれわれは、労働者国家の官僚主義的堕落は世界社会主義のための歴史的闘争における過渡的形態にすぎず、また労働者国家(ないし国家群)における十分な物質的基礎の不足と、労働者国家の孤立によって可能とされたものであることを知っている。しかしながらマルクス主義者は、堕落のこの基本的な原因を認めつつも、そのことによって機械主義的自動的な決定論(ソヴィエト型の極端な堕落の不可避性)を受入れたりはしない。彼らはただ、労働者国家の物質的基礎が貧困であるほど官僚主義的歪曲の危険が増すことを認めるだけである。それによって、ソ連プロレタリアートおよび国際プロレタリアートは避けられうる虐殺と敗北と犠牲を費やさせられる。またマルクス主義者は、需要、敵対的環境の圧力、文化や熟練の欠如等といった客観的要因が自然発生的に作用を及ぼすのに対し、主体的要因としてできるだけ反対するために革命的前衛が必要不可欠であることを理解している。
 この観点から、官僚主義的専横を厳しく制限できるように経済的機能ならびに経済的権力を分割する必要性を理解し、同時に生産力の最も調和的な発展に対して最良の保証を作りだすことが不可欠である。次のプランにしたがって権力の分割を系統的に確立すべきである。
 (a) 中央の決定(ソヴィエトないし労働者評議会の全国大会における)は国民生産物の分配の概略(投資政策、成長率、価格および賃金政策など)に関するかぎり、諸代案を民主的に討論した後に採択されなければならない。第四インターナショナルは、反民主主義的な反共産主義的なものとして、企業の完全な自律というアナルコ・サンジカリズムの神話に反対する。このようなものは(多かれ少なかれ自由競争的か、さもなければ多かれ少なかれ独占的な)市場を求めての競争的な闘争に終るだけであり、より近代的な工場の労働者がより遅れた企業の労働者の生産物を搾取するなどのあらゆる不公正をともない、このようにして計画経済の混乱をもたらすにすぎない。
 (b) プロレタリアート全体から選挙された代表が作成する一般計画の枠内で、労働者評議会は企業運営すること。これらの評議会は、計画を遂行する間にその計画を統制し、必要とあれば修正しなければならない。評議会は生産者の特権利益(具体的に適用される労働ノルマと賃金ノルマ、解雇と雇用、労働の組織など)を擁護しなければならない。評議会は支配人を選び、そして同時に、ますます多くの労働者がつぎつぎと行政機能の執行に習熟する大経営学校とならなければならない。
 (c) 統制についての労働組合の役割は主として、(主として生産の観点を代表する)労働者評議会および中央計画機関にたいして一定の文化的要求をかかげて消費者および市民としての労働者の利益を擁護することでなければならない。組合は期限付団体協約の枠内において、一般的な労働・賃金ノルマとその種々の産業部門や工場への適用を討論しなければならない。組合は行政的な役割を果すことなくあらゆる形の労働者の社会保険を監視しなければならない(行政的な役割は国家つまり地方自治機関のものである)。組合は、労働時間を短縮し、有給休暇とあらゆる面の文化生活への労働者の参加などを増大することを試みなければならない。組合は、自発的な加入の厳格な規約に基づかなければならない。その点では組合は党と同様で、企業や地区のあらゆる賃金取得者が自動的に投票権をもつ労働者評議会やソヴィエトとは異なる。
 ストライキ権を実質的に保証することは同時にまた経済的権力分割を有効にかつ単に形式的でなく保証することである。
 経済的権力分割の重要性を強調することによって、第四インターナショナルはまた次のことを断言する。組織的な構造がどれだけ理想的であっても、政治的労働者民主主義が存在し、つねに増大する数の労働者による国の政治生活への効果的な参加が開花しないかぎり、それは死んだ骨格にすぎない。計画経済においては、国民所得を大まかな比率に分配する仕方に関する決定は、すべての行政機関に大なり小なり厳しい枠をはめる重要な要因である。この枠から行政機関が離れるならば、必ず計画経済全体を破壊せずにはおかないものである。労働者階級の大多数がこの決定に直接的であれ間接的(自由に選挙された代表者によって)であれ参加しないかぎり、そして、彼ら自身生産力を発展させるために喜んで行う犠牲の限界を――事実の十分な知識をもって――確立しないかぎり、充分に発展した真実のソヴィエト民主主義について具体的に語ることはできない。異った労働者の流派が労働者自身の決定にたいする代案(一般的なものであれ部分的なものであれ)を提案することが許されないかぎり、この参加は現実的というよりはむしろ架空的なものとしてとどまるであろう。

16 社会主義は豊かさに基いた一社会組織形態である。プロレタリアートが、一国(最も発展した国を含めて)において権力を獲得する場合にも、一国の現有の生産力ではすべての人民にたいしてこの豊かさを確保するのに十分ではない。まして、地球上のすべての人民にたいしては十分でありえない。したがって、資本主義から社会主義への移行期は、決して、プロレタリアートが単に既存の地球上の富の新しくより公平な分配に満足できる期間にすぎないのではない。各人が貢献した働きに応じて満足を計算することなくして、すべての人の要求を完全に満足しうる社会組織という目標に達するために、プロレタリアートはその期間のあいだに、社会が現在保有している生産手段のストックと富の生産を大巾に増大させなければならない。
 このテーゼに照らしていうと、生産発展の問題について、工業化がおくれた労働者国家やその国家群と、資本主義が近代工業の相当な発展をすでに確保した国において出現した労働者国家とは、ただ量的な相違しかないように思われやすい。しかしながら、これはまちがいである。社会化された産業の発展に関するかぎり、これら二つの型の国家間には質的な差異が存在する。
 (a) 社会的観点からみれば、最初のグループの国においては、工業化は―たとえ国際社会主義経済の援助を受け入れるばあいでも―敵対的な環境のなかで発展するのである(大多数の人口は小農民によって構成される)。ところが第二のグループの国家においては、その経済政策にたいして人口の三分の二ではないにしても過半数の支持を得ることができる。
 (b) 経済的観点からみれば、第一のグループの国家における工業化は、次の諸目的を複合してそれに合わせなければならない。労働者の特殊利益、かれらの生活水準および文化水準等々の向上、そして農民を区別する必要性(農民一般から貧農層と中農層を区別しなければならない。貧農層は社会主義経済に自由に統合しうるものであり、中農層は富農層の原始的蓄積にたいする闘争において中立化し得る)。第二の国家グループにおいては、経済の発展は生産者大衆の増大する要求を満足させる方向に根本的に方向づけられうるものであり、その間に、工業化のおくれた労働者国家を援助するため、国民生産の重要な部分を長い過渡的期間の間にわたってたくわえることもできるのである。
 第四インターナショナルは、労働者国家が労働者に、彼らが自由に受け入れる以上の余分の犠牲を課することはできないという原則を主張するだけではない。第四インターナショナルはまた次のように主張する。それはまた、長期にわたる蓄積率を系統的に増大させようとするいかなる試みも、労働生産性と生産者の自律性に否定的な反作用をおよぼし、そして巨大な損失と浪費をもたらすこと、および、この損失と浪費は、このような蓄積から得られると考えられる利益を大きな範囲で失ってしまうものである。種々の経済セクター、工業、農業、交通等各産業部門のあいだの調和的な発展比率を確立する計画経済だけが、長期において成果をあげるのである。このような組織の基礎は、多かれ少なかれ生産者の生活水準の上昇に等しい上昇率の生産増大でなければならない。生産者がこの並行的な進歩を自身で容易に測定することができればできるほど、いっそう彼らの経済発展への創造的参加は自覚的となり、より熱心となるであろう。あらゆる経済部門のこの調和的発展の必要からして、農業における強制的な集団化政策ははじめから排除される。それは、農業生産の後退ではないにしても停滞をもたらし、都市の食糧供給をゆゆしく頓挫させる原因である。
 他方、この均衡発展の必要は全農民層における農業生産協同組合の創設と両立しうるものであり、この全農民層はこの協同組合が彼らに具体的な物質的利益をもたらす条件のもとでは、社会的経済的にこのような生産方式を受け入れる用意があるのである。
 将来において、ある大陸で一労働者国家が孤立して自力で社会主義的経済を建設することをよぎなくされる事態が生じるのを考慮に入れるにしても、経験が教えてくれたように、労働者国家間に相互の平等を基礎にして行なわれる国際的な分業と相互援助こそは、経済の発展を容易にし促進する一要素であり、いかなるばあいにおいても、最も進んだ資本主義国において到達された生活水準に追いつき追い越すために必要不可欠であり、社会主義経済の資本主義経済にたいする決定的な勝利の唯一の基準である。一国ないし少数の国家群において自給自足的社会主義経済の建設を達成しうるという理念は、反動的神話として拒否しなければならない。

17 堕落した労働者国家における政治革命と、資本主義諸国における社会革命の双方の目的であるソヴィエト民主主義は、人類の芸術的創造や科学的研究およびすべての文化的活動の自由な発展なくしては考えられないものである。革命によって新しい社会にきりひらかれる創造的な技術的・生産的諸力の巨大な備蓄を完全に十分に開発するためにかような自由な発展はますます不可欠な条件になりつつある。自由な発展とは、党および革命的前衛が理論的分野に生じる多くの矛盾に関して自身の見解を発表するのを自制することを意味しない。それは次のことを意味するのである。
 (a) 革命的政党はマルクス主義のテーゼと弁証法的史的唯物論を支持して宣伝と説得を通じて戦闘的活動に従事する。国家がこのテーゼの採用ないし排他的提供を強制することなしに、革命的政党は教育者組織や青年にこのテーゼを教える広汎な可能性が与えられることを要求する。
 (b) たとえ革命的前衛によって進歩的であるとみなされなくとも、いかなる科学的・芸術的・文化的傾向も、その生産的・創造的努力において弾圧されたり政治的に処罰されたり、妨げられたりすることはありえない。
 (c) 物的利益の形であれ、階層的序列の地位の分与であれ、国家は公的な承認を科学・芸術ないし文化的活動の分野におけるいかなる傾向にも与えない。これらの活動は、自治の原則の厳密な適用にもっともな分野である。
 (d) 党は、優先さるべき社会的・経済的・文化的目的を選択すること(たとえば住宅問題の解決が都会の美化の必要の解決より優先すること)と、たとえ直ちに行なうことができなくてもこれらの目的に属する正しい原則を、理論的水準(長期的計画のような)に基づいて擁護する必要とのあいだに、明らかな区別をもうける。
 同様にソヴィエト民主主義は、今日大多数の人民が文明の物質的・文化的な恩恵を享受することを妨げている一切の障害を急速に取り除くことなしには考えられないものである。ソヴィエト民主主義は、すべての水準で十分に自由な教育を保証し、選抜は厳密に個人の能力に従ってなされることを保証しなければならない。ソヴィエト民主主義はすべての人民に社会的な差別なしに無料で医療を受ける権利を保証しなければならない。ソヴィエト民主主義は、青年が政治生活に全面的にかつ自治をもって参加することを確保しなければならない。ソヴィエト民主主義は「同一労働同一賃金」の原則を完全に実現し、女性を数千年来の従属から解放することに最大限の奨励を与え、同時に女性の肉体的な特性に応じた職業の選択を許さなければならない。ソヴィエト民主主義は婚姻法を十月革命の精神で改正し、また離婚の権利と自発的出産(避妊器具の無料普及と堕胎の権利)、児童の権利・学校の自治を確保しなければならない。これらのことがらはすべて、男性および女性の絶対的な平等と、一人の者によって他の者が強制されることを完全に排除することとをもたらすはずである。

18 ソ連官僚は、「一国社会主義」の旗の下に権力をさん奪した。官僚制にたいする政治革命が勝利するのは、すべての民族の厳格な平等に基づいた真実のプロレタリア国際主義の旗の下においてである。官僚は種々の労働者国家間の関係とソ連内の種々の民族間の関係をも、その野蛮な大ロシア排外主義とその偏狭なプチブル的偏見によって毒してきた。
 第四インターナショナルは、世界プロレタリアートの利益をクレムリン官僚の利益に従属させるスターリニスト的概念をプロレタリア国際主義の基準とすることを非難する。第四インターナショナルはまた、大抑圧民族の排外主義と少数民族の民族主義を同列に並べて否定しなければならないという反レーニン主義的テーゼを拒否する。いたるところに国際的連帯の旗をかかげながち、第四インターナショナルは無条件に反動的な大ロシア(及び大漢)排外主義と、官僚に抑圧されている少数民族の民族主義との間に明瞭な区別をする。しばしば少数民族の民族主義は彼らがこうむっている民族的抑圧にたいする大衆の正当な反抗の変形にすぎない。彼らの民族主義は決して彼らの解放闘争の客観的に進歩的な性格を変形させることはできない。
 それだから、第四インターナショナルは、ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナ、グルジア、リトアニア、ラトヴィア、エストニアの独立した主権をもったソヴィエト社会主義共和国のスローガンを擁護するとともに、同時に、これらの労働者国家をすべて厳密な平等を基礎にして、ひとつないしいくつかの労働者国家の民主的連邦に連合することを支持する。
 民主的な労働者国家は、労働者と青年を、すべての人民の文化的な個性にたいする全面的な尊重の精神で教育し、その文化的な個性にたいして民主的労働者国家は無制限の発展を確保するであろう。民主的な労働者国家は、排外主義、民族主義、民族的ないし人種的嫌悪、反ユダヤ主義のいかなる表現にたいしてもたゆまず闘うであろう。民主的労働者国家は、可能なかぎりいつでも、労働者国家の労働者の連帯と利益、そして彼が世界中あらゆる国の闘争に意識的に参加することを増大させようと試みるであろう。
 国際革命の利益を労働者国家の擁護に従属させる民族主義的傾向は、たとえこの国家がどれほど重要であり進歩的なものであっても、つねに官僚主義的歪曲の明瞭な徴候である。

19 第四インターナショナルは、労働者のインターナショナルの問題を革命的政党と同じ精神で考える。労働者国家の権力を掌握した一つないし数個の党を包含するインターナショナルは、これらの労働者国家の人民や政府にたいして政策を「指令」することができない。それは党がソヴィエトに組織された労働者にたいして指令することがあってはならないのと同じである。インターナショナルは労働者の決定にあたってみずから提出する議論の確信と権威を強めることができるだけである。そしてこのことさえも、プロレタリアートの集団利益をこの利益の特殊な民族主義的奇形にたいして組織的に擁護してきたのはこのインターナショナルであることを、経験を通じて労働者がわかったときだけそうなのである。
 この精神で考えるならば、革命的インターナショナルは、時代遅れなものでもなく、一国ないし数ヵ国でプロレタリアートが権力を奪取すると重要性を失うものでもなくて、世界共産主義の建設によって提起される課題を解決するためには絶対に不可欠な機関なのである。
 (a) 一つないし数ヵ国の労働者国家がよぎなくされる不可避的な外交上のマヌーバーは別にして、インターナショナルはすべての革命政党の闘争に調整を加える。世界革命の勝利を最も短い期間に達成するために、この中には、すでに権力を奪取している国の党も含むのである。
 (b) 革命の勝利の後に、インターナショナルは、最も可能性のある国際的計画経済を調整し助長するためにあらゆる努力を行ない、このようにして労働者国家連邦の実際的な可能性の先がけをなすのである。 (c) インターナショナルは、世界共産主義が実現するまでの永久革命の過程において、労働者国家の革命的前衛のすべての活動を調整し、助長するための機関である。この分野において充分な理論的一般化がなされなければならず、そして各国まちまちな民族的経験に基づいていては、このことはなされえないので、これはなおさら重要なのである。
 コミンテルンからコミンフォルムへと、スターリン時代のいまわしい経験を経て、多くの共産主義の闘士諸君は、民主的中央集権主義に基づいたインターナショナルの考えそのものに懐疑的になっている。この懐疑は決して正しくないものである。この傾向に屈服することは革命的マルクス主義の根本的な要素を放棄することである。共産主義の世界的危機が始まったのは、共産主義インターナショナルの堕落を通じてではない。官僚主義がはじめ民主主義を破壊し、かくしてレーニン主義の道を離れていったのは、ある党、すなわちロシアの党においてである。インターナショナルが強ければ強いほど、そして一つの支部ないし少数の支部の集団の支配的な影響から遠のけば遠のくほど、党ないし労働者国家の官僚主義化の危険にたいする闘争は、国際労働運動の健全な部分のすべての活力を最も危険な国に導入することによって、より容易なものとなるのである。
 まさしくこの理由から「多中心」国際組織あるいは共産党間の純粋に「双務的な」(二国間)関係といういかなる思想も拒否されなければならない。そのような日和見主義的公式の目的は、労働運動の健全な進歩を守るのではなくて、民族的官僚主義を国際革命の影響から保護することである。


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